漫画家まどの一哉ブログ
読書(mixi過去日記)
「鉄の時代」 J・M・クッツェー著
アパルトヘイト廃止直前、騒乱の南アフリカ。癌を抱えて死を目の前にしながら、一人留まり続ける白人老婦人のモノローグ。はるかアメリカに移住した愛娘への手紙という体裁で語られる。
永年にわたって気付かれた白人による支配を恥じることによって矜持を保つ老婦人カレン。しかし現実は彼女の思惑を越えて、強烈なしっぺがえしを与え続ける。反アパルトヘイト闘争のなかで、政府・警察によって追われ、殺される黒人少年たち。彼らは戦いの絆の中で死をも厭わないが、それは人間としての感受性を全て放棄した悲しい鉄の心だった。
物語は、ある日主人公カレンの家にふらりと現れたホームレスの男との、奇妙な同居生活を中心に進む。彼にとってはこの騒乱も存在しないかのごとく、ただだらしない日常がつづくのみである。
こう書くとまるで社会派小説のようだが、主人公の語り口はあまりにも個人的で、詩的言語の連続であり、人生そのものに対する深い洞察が、イメージのまま語られるので、まったく社会派小説ではない。でないと自分は読まない。
ところでそもそも自分は、例えば2時間自由時間があれば、映画を観るより本を読むタイプであるが、実はそれほど言葉というものを信用していない。
言語を積み重ねて認識を深めるというやりかたは、その言葉数がある一定量を越えると、たちまち効率が悪くなって、どうどうめぐりになる気がする。
言葉は認識の最終形体ではない。
それならむしろ、イメージをもてあそんで、絢爛たる言語空間を築いたほうが楽しい。そこに小説という分野の醍醐味あり。てなことをあらためて考えさせる作品でした。すんません、直接の感想でなくて。