漫画家まどの一哉ブログ
「内地へよろしく」 久生十蘭
読書
「内地へよろしく」 久生十蘭 作
「内地へよろしく」 久生十蘭 作
1944年作品。太平洋戦争中、主人公は報道班従軍画家の青年。赤道を越えて南洋の島々に赴き、物資滞る中でも明るく誠実に生きる人々に出会う。タイトルから全編戦地での話かと思いきや、主人公は早々と内地へ帰ってきて、物語の大半はお見合い騒動を中心としたドタバタコメディである。内地外地ともに登場人物が個性的で、皆善人。人情味溢れる庶民ばかりだ。
そんな内容でありながら、久生十蘭の文章がさすがに密度が高くて面白く、緊張感があって味わいたっぷり。なかでも銚子(外川)の鰹漁師の不良爺さん連のしゃべる方言が気持ちよくってしかたがない。また主人公はじめ昔風の江戸っ子訛りで、こんな口調は今東京でも聞けないだろうが、まことに楽しい。
お見合い騒動も終わって主人公達は連れ立って、またもや南方の戦地へ赴くのだが、以前と違って戦況は熾烈なものとなり、呑気な常夏の暮らしはもはやありえず、島に生きる日本人達は国のために命を投げ出す覚悟で健気に毎日を送るといった描写に終始しているのは、時節がらしかたのないものであろう。
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