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漫画家まどの一哉ブログ

   
「八月の光」フォークナー
読書
「八月の光」フォークナー 作


主人公の一人とされている若い妊婦が素直でポジティブな明るい性格で、彼女が中心となって展開するのかと期待したが、残念ながらあまり登場しない。やはり主人公である孤児院出身の黒人の血が流れる白人の男が、生まれてから犯罪者となって死ぬまでに物語の大半が割かれており、愛を知らない人生で実に殺伐としたものだ。

そしてもう一人の主人公である教会をクビになった牧師。教会をクビになっても自分が牧師であることは捨て去ることができない。この神との責務を絶対に果たそうとするカルヴァン主義者の精神性はよく分からない。そういえばこの牧師と親しい工場労働者の青年も、土曜日も誰とも遊ぶことなく一人工場で自分に課したノルマを働く非常に内気で真面目な男で、牧師とは似たような人格だ。これが根っからのプロテスタントというものか。

長編小説ではよくあるが、新しい人物が登場するたびにその生い立ちから現在に至るまでを丁寧に追いかけて一章分くらい使う。話に深みが出て当然面白くなるが、ときどき子供の頃はもういいから、今のことを話せよと思ってしまう。多くの人間が登場するが、実に多様な顔ぶれで、貧しい自分の人生経験から彼らの内面を理解することはちょっと覚束ない。フォークナーの中ではこの作品が一番わかりやすく、他のものは多少難解なところがあるらしいが、なるほど王道を行くような人間ドラマで、エンターテイメントとしても遠慮するところがない。

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