漫画家まどの一哉ブログ
「ムシェ 小さな英雄の物語」 キルメン・ウリベ
「ムシェ 小さな英雄の物語」
キルメン・ウリベ 作
(白水社エクスリブリス・金子奈美 訳)
スペイン内戦下、戦火を逃れてベルギーへ疎開した少女を引き取ったムシェ。その後反ナチス運動へ身を投じた彼の過酷な運命をたどる、丹念な取材をもとに書かれた実話小説。
スペイン・バスク地方から来た少女を引き取ったことから始まって、やがて少女はバスクへ帰り、ムシェ自身は結婚して女の子が生まれる。その後ナチスに抵抗するマルクス主義者として地下活動へ入り、逮捕されて過酷な収容所生活へ。
この運命の変転を時系列に従って単線的に書けば、ストーリーの起伏に胸躍らせて読むことができよう。
しかし作者はその方法は取らず、ルポルタージュ的に行きつ戻りつしながら淡々と出来事の推移を書き留めてゆく。非常に静かな落ち着いた筆致で、事実はより深く我々読者の心奥に届く印象だ。
オートリアリズムと呼ばれる方法のようだが、作者ウリベの第1作「ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ」を私は2016年に読んでいて、その時もバスク地方出身の自身を丁寧に追って、深みのあるエッセイのような読後感を得たものだった。
主人公ムシェは特別な存在ではなく、疎開してきた子供たちを引き取った人々は他にもいて、みな小さな英雄である。とりわけムシェは真面目で誠実な人柄で、ナチスと戦う過程で妻子と離れ悲惨な運命に身を任すこととなってしまった。
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