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「オペラ座の怪人」 ガストン・ルルー

「オペラ座の怪人」
ガストン・ルルー 作
(新潮文庫・村松潔 訳)

パリ・オペラ座に頻出する奇怪な事件。地下に潜むと噂される不思議な怪人の存在。若き子爵と歌姫のままならない恋愛をめぐって、怪人の暗躍が解き明かされてゆく。

物語半ばまでは誰もいない場所から声が聞こえたり、人間が急に消えたりあり得ない出来事が連続し、怪人はどう考えても悪霊的存在で、怪奇小説として読まざるを得ない。
ところが半ばを過ぎるにつれ一つまた一つとトリックが解明されて、怪人もその姿を現わし、しだいに謎解きを含む推理冒険小説の形をとってくる。まさに怪奇・推理小説の先駆的名作とよばれる所以である。

全体の構成もやや変わっていて、まず前文「はじめに」で作者が怪人の存在を確信したいきさつに触れ、本編後半クライマックス部分は終盤に登場するペルシャ人の手記によって進行する。この謎のペルシャ人が物語を推理冒険ドラマへと導く重要人物なのだが終盤近くになってようやく登場するのだ。なにせ主人公の若き青年子爵では感情的すぎて謎解きは不可能である。

ドラマの大半は子爵と歌姫の恋が果たして成就するのか、その苦難の道行が描かれ、やはりどうしても若き恋愛物語になってしまうのかとも思った。個人的には怪人の存在を全否定する支配人たちの混乱ぶりがおもしろく、その周辺の人々を巻き込んだオペラ界全体にスポットが当たっているシーンの方が好みだ。

推理小説というジャンルが固定化される前のこうした古典的エンターテイメントには、お約束にしばられない面白さがあるのかもしれない。

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