漫画家まどの一哉ブログ
「ジュリアとバズーカ」 アンナ・カヴァン
読書
「ジュリアとバズーカ」 アンナ・カヴァン 作
「ジュリアとバズーカ」 アンナ・カヴァン 作
短編連作ながら、どれも作者自身の境遇をモデルに描いた共通した内容。テニスプレーヤーとしての少女時代であり、ヘロイン中毒患者であり、その状態のまま車を猛スピードで走らせる車好きであり、世界から疎外されながらも唯一の理解者である恋人との恋愛を語り、その結果としての破局を嘆き、幽霊までも見てしまう。それらの要素が入れ替わり立ち代わり、叫ぶようにたたきつけられ容赦がない。
平穏無事な日常にまったく安住していないところが魅力だ。
カヴァンの作品はたしかに創作なのだけれど、ただならぬ切迫感があって、今にも破滅しそうなぎりぎりの叫びがたまらなく良い。いわゆる日本の私小説は苦悩を描いてみせる作家の作為が読みどころなので、それはそれでおもしろいが、カヴァンの場合私小説に見られるような作為的な余裕がまるで感じられなくて、作者と作品に距離が無い。まさに荒れ狂っている印象だ。
表題作のバズーカというのは常に持ち歩いているヘロインの注射器のこと。だからといってヘロイン中毒自体が直接描かれているわけではなく、あくまで主題は世界に居場所を見つけられない苦しみだ。こんな狂乱を抱えた状態でもきっちりと創作されているのが持ち味というか、持って生まれた資質というものだろう。捨てがたい。捨てないけど。
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