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漫画家まどの一哉ブログ

   
カテゴリー「読書日記」の記事一覧
読書
「巡査の首」
又吉栄喜 作


沖縄本島からさらに南、日本と国交のない独立国である島国「垂下国」。珊瑚礁の島「謝名元島」で暮らす克馬と早紀の兄妹は、密かに「垂下国」へ潜入する。それはタキおばあの遺言どおり、おばあの遺骨を戦時下の「垂下国」で死んだおじいのそばに葬るためだった。
戦時中、統治者でありながら、巡査として正義と公平を貫いたと聞き伝えら得るおじい。そのおじいが垂下島の原住民「阿族」に首を切り落とされたのは、ほんとうだったのか?また、「阿族」のみが扱う興奮剤カミノキの酒とは…。

統治者である日本人から差別されて生きる琉球人。その琉球人からも蔑まれる垂下国人。さらに差別される阿族たち。てっきり現代沖縄を舞台にした小説だと思って読み始めて驚いた。しかしこのモデルとなる戦時中の舞台は台湾であり、高砂族であろう。事実は一方から見れば正義であり、一方から見れば犯罪である。同じ行為が支配であり、友愛であった。当事者は当事者の立場からすれば常に英雄であった。

けっこうゴツゴツとした文体で、ちっとも滑らかさがなく、最初は読みにくかったが、馴れるとスキがなくてスピードがでるよ。

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読書
「山ン中の師見朋成雄(シミトモナルオ)」
舞城王太郎 作


福井県の田舎町に住む中学生の成雄は、オリンピック強化選手に誘われるほど足が速く、頑健だ。代々背中にびっしり毛が生える体質で、その動物的な自分を嫌い、通称モヒ寛なる山中に住む書道家中年男と相撲を取ったり、書道を習ったりして過ごしている。
ある日森の中で馬に出会い、モヒ寛が瀕死の大けがをしているのを発見してから、事件は展開。
秘密の館で繰り広げられる、女体盛りとカニバリズムの宴とは?

前半なかなかに味わいのある文体で、主人公とモヒ寛の珍妙な生活を描いておもしろく、これはこのまま純文学として終わるのかなと思っていると、後半なぞの刺客たちや、器として利用される女たちが登場してから、加速度的にエンターテイメントとなり、あっというまに読まされてしまった。それはどっちでもいいが、いずれにしても退屈しないのは文章がきれいだからではないか?と素人ながら感じた。

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読書
「霊魂だけが知っている」
メアリー・ローチ 著


はやりのスピリチュアルや、かつてのニューエイジとは無縁のサイエンス・ライターによる心霊研究といったことならば、昔から大好きだ。やっぱり自分だって死後の魂の存在を全否定して平然としていられるほど強くないもの。はたして霊魂について現代科学はどこまで検証し得たか?

興味深く読んだが、ちょっともの足りなかったのは、8割がかつての歴史上の心霊研究史の愉快な逸話で占められていて、今最先端の研究については少ししか触れてなかったところ。やはり取り上げるに足る成果が少ないのだろうか。
それでも過去の心霊研究は面白かった。ちょうど電話やラジオが普及し始めた頃、人々はすわ霊界とコンタクトできると思ったようだ。そのころのエジソンやテスラのエピソードは有名なものも多いが、やっぱりおもしろい。

近年の研究で気になるのは、電磁波が充満している部屋など、電磁場にさらされると、メラトニンレベルが下がり、脳の右側頭葉に微小発作が起きて幻覚が生じやすくなること。右側頭葉の刺激によって心霊体験が生じることは、立花隆の著作でも触れられていたので、どうやらポイントらしい。
また、人間の耳に聴こえない18〜19ヘルツの超低周波を受けると、血流が下がるなど身体へ悪影響があり、視覚異常をも引き起こす。心霊スポットとは、実は超低周波スポットではないか?

臨死体験の研究も諸説あるわけだが、大脳皮質と脳幹のすべての機能が失われている時に、意識・認知・記憶が機能しているようにみえるというのは驚きだ。つまり肉体としての脳は、幻覚すら見ることができない状態なのだから、肉体外の意識体を考えざるをえないわけだ。
ヴァージニア大学病院のある手術室には、天井近くに開いたノートパソコンが上を向けて置いてある。そこに映し出されている画像は手術台の視点からは誰も見えない。つまり肉体を離れ、天井近くから自分が手術されている様子を見た者にしか見えない仕掛けになっている。この興味深い実験の結果は未だ報告されていないようである。

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読書(mixi過去日記より)
「北の河」
高井有一 作
(1966年)

終戦後占領下の日本。戦火に追われて身寄りのなくなった中学生の私と母親は、亡き父方の親類を頼って東京を離れ北国で暮らし始める。不慣れな土地での暮らしに馴染めず、孤独の中に閉じこもるようになった母親は、ある日河に身を投げて死んでしまう。だんだんと精神のバランスを失って寡黙になる中、自死への思いを強めていく母親の描写が、饒舌でないだけかえって興奮をそそる。以下母親の言葉。

「そう、ただ寒いだけじゃない。私たちだけで、何も無い所で、寒さに閉じ籠められてしまうのよ。それも今年の冬ばかりじゃなく、ずっと続いて行くのよ。そんな事、想像もつきはしないわ」
「もういやになってしまったの。本当にいや。疲れてしまったのよ。特に貴方と暮らすのにね。これから先どんな事があっても、此処がどんなに住みよくたって、周りの人がどんなに親切だって、もういや。貴方と二人だけで顔つき合せて暮して、一切合財を頼られ切って、それ以外に何もない生活、こんな生活がこれ以上続けて行かれるとでも思ってるの。よかったら、貴方一人で続けなさい。そう、それで自分でいろいろと知るといいわ。そうすれば、今みたいに独りで倖せそうにしているのが、どんなに間違いか判る筈よ」
「死ぬのよ。そうすればいいじゃないの」
「もう、死ぬわよ。いいわね」

そうやって死んでしまう母親。残された中学生の私。
一読してショック。狂気を描いた小説はいろいろと読んできたが、これは迫真のリアリズム。カタルシスなし。

作者自選短編集のうち、この一編が強烈に印象に残った。
表題作など、生活の安定した作家の身辺を描いたものは、ちょっと勘弁してほしいわ。
(講談社文芸文庫「半日の放浪」)

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読書
「だいにっほん、おんたこめいわく史」
笙野頼子 作



あまり現代作家を追いかけない自分だが、好きだと言える数少ない作家が笙野頼子だ。
「おんたこ教団」に征服されて、「にっほん」となってしまった国。おんたこ政権は少女をいろんなカタチで商品として海外に売り出している、おたく・ロリコン政権である。対決していた「みたこ教団」も風前の灯火である。しかもおんたこ政権は、反権力・疑似左翼で、弱く傷つきやすい僕たちという立場をとっているのだから始末が悪い。

その「おんたこ」の有様を破壊的な文体で、ギャースカギャースカ書いて、話の半分終わったところで、ピタと止まる。そして小説家笙野頼子は困難にぶちあたった。というフレーズが登場。
たしかにここまでは、頭がくらくらするわりには面白くない。ところがこのあと、小説内小説ー御霊の自動語りといった体裁をとると、俄然おもしろくなった!いかにも神様と化した霊体は、こんなふうに時代をまたいで存在するだろうなあと思う。そのあたりが妙にリアルだが、これは単に自分好みというだけかも知れない…。

で、けっきょく最後は「おんたこ」の話に戻るのだが、実はこの作品は現代の消費資本主義社会の見えない大きな敵に対する告発なのだった。でもそこは自分はどっちでもよい。

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読書(mixi過去日記より)
「香水」ある人殺しの物語
パトリック・ジュースキント作

先頃公開された映画「パフューム」の原作

18世紀フランス。光を見、音を聞くが如く、あらゆる物の臭いを嗅ぎ分ける絶対的な嗅覚の持ち主グルヌイユは、孤児の身分からやがて天才香水調合師としてパリ中に名声を馳せる。だが、彼が追い求める究極の香りとは、胸も膨らみかけたばかりの処女の持つ体臭であった。女の肉体にはなんの興味もない彼は、その香りだけを永遠に手に入れるため、密かに殺人を繰り返してゆく。といったストーリー。だがミステリーにあらず。

舞台は18世紀だが、近年書かれた幻想文学の傑作。耽美風味はなく素直な文体で読みやすいクチ。
物語途中、パリを離れた主人公が山中の洞窟で何年も世捨て人としての生活を送るが、このインターバルが結構長くて、自分は一度中断してしまった。必要やったんやろか?と、今でも思う。映画は未見だが、どうなってるんやろ?
(池内紀 訳・文春文庫)

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読書「臈たしアナベル・リイ 総毛立ちつ身まかりつ」
大江健三郎 作


作家ケンサンロウはかつての学友、今は映画プロデューサーの男に、ある国際的な映画のシナリオを依頼された。主役を張るベテラン女優サクラは、かつてケンサンロウが学生時代に見た8ミリフィルム作品、「アナベル・リイ」(ポー詩原案)のなかのアナベル役の少女である。
ケンサンロウの故郷松山に伝わる「メイスケ母」の農民運動を素材に企画は進むが、やがて隠された事実が。かつて少女時代のサクラが主演した8ミリフィルム「アナベル・リイ」には、本人が知らない間に撮られたノーカット版があり、そこで彼女は裸身であった。これは忌まわしきチャイルド・ポルノなのだろうか?

大江健三郎の紡ぎ出すイメージはむかしから、あきらかにわたしの趣味に合っているのだが、あのだらだらした粘着質の文体がどうにも読みにくくて、つかず離れずといった読書体験だった。しかしこの作品は気にならずに読めた。森の中の土地に伝わる「メイスケ母」の怨霊、白い寛衣をつけて死者を演じる少女、そしてタイトルや文中に日夏耿之介のポー訳詩。土俗的で絢爛でエロチックな世界は、やはりあの独特の文体から匂い立つ。それにしても2007年の作品だから、作者老いてますます盛んと言っていいか。

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読書「未見坂」
堀江敏幸 作


とある小さな街の人々の日常を描いた短編集。
個々の話は独立しているが、ゆるく繋がっている。
いちばん良かったのは次の話。

■戸の池一丁目
家族のものが亡くなって、残された義母と二人暮らしを続ける主人公の男。義母の具合がわるくなって以来、三叉路の角地に建つ団子屋を引き継いでいる。店の裏地には、動かなくなった旧式のボンネットタイプの大型バスが放置されていて、それはむかし男が移動スーパーの商売に使っていたものだった。ある日路線バスに乗り違えてやってきた、古い知り合いの娘と幼児。男の脳裏には移動スーパーを走らせていた頃のいろいろな思い出がかけめぐるのだった。

他にもバラバラになりかけ、またなってしまって進行中の様々な家族の様子が、いろんな家業のやりくりを通して描かれる。地方都市ゆえか、酒屋や、床屋など、親の代から引き継いだ商売の設定が多い。そんな場合、子供の目線で大人たちを描くのは定番で、それが分かりやすいのだろう。個人的には子供のこころの揺らぎに興味はないが…。
それにしても静かな筆致で味わいがあり、露骨な事件性もなく、もちろん狂気も幻想性もない。正統派の日本文学とはこういうものかという気がした。

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読書
「さすらう雨のかかし」
丸山健二 作


過疎化の波はくい止めようのないものの、穏やかに時間の過ぎ行く漁業の町「海ノ口町」。主人公のわたしは、ここで生まれここで育ち、四十過ぎの今日まで町を出てゆくこともないまま、市役所の苦情処理係を懸命に勤めていた。大豆畑のかかしは、そんなわたしをモデルに作られている。

ところがある日、主人公のわたしに瓜二つのヤクザ男が町に現れた。隣町のサーカスに、孤児院の子供たちを引率したおり、そのヤクザと間違われたのをきっかけに、わたしの中で平凡な人生が崩れ始める。堅実ではあるが、けしてさすらうことをしない人生。これでほんとうによかったのか?実は40年間自分に嘘をついてきたのではなかったか?

やがて何者かによっていたずらされるかかし。山から転げ落ちる大岩。さびれた工場跡にたむろする野犬の群れ。平凡な人生が突然揺らぎ出し、わたしはこの日常を捨てて、いよいよ町を飛び出す衝動にかられるが…。

取りかえしのつかないいら立ちにさいなまれる中年男の心情が、雨中を飛ばす車とあいまって、スリリングに描かれ、吸込まれるようにして読んだ。人生も後のほうが短いとこのあせりがよく分かるというもの。うかつにもこれまで気にはしていたが、丸山健二を読んでなかった。もう少し読んでみよう。もう少し。

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読書(mixi過去日記より)
「坑夫」
宮嶋 資夫 作


大正時代のアナキスト小説家、宮嶋 資夫(みやじま すけお)の処女小説作品。
坑夫石井金次はその攻撃的な性格から、炭鉱内でたびたび問題を引き起こしていた。彼は虐待され搾取される自身の労働環境に深い憤りを感じつつも、声を上げようともしない探鉱者仲間たちにも煮え切らない思いで、ふだんから睨む様な目つきで仲間に接し、酒をくらい、暴力をふるい、人の女房をかどわかすのだった。炭鉱内で孤立してゆく男の破滅に至るまでの心情をリアルに追った名作。

もしこの作品を労働者を描いたという褒め言葉で、プロレタリア文学の枠組みに入れてしまうとしたら、もったいない話。確かに虐げられつつも立ち上がることも出来ない、炭坑労働者の実態そのものは描かれているが、それはそのこと以上のものではなく、この作品の魅力はなんといっても主人公石井の人物造形にある。この無学で短気で、鬱屈した感情をつねに暴力に置き換える、この人物の屈折した心理がいたいほど伝わってくる。この性格設定は別に労働者に限定されるものではなく、それこそ資本家でもいいわけだから、やはりすぐれたプロレタリア文学というものは、単純に労働運動に目的化されない深みを獲得しているということでしょう。ボクは有島武郎「カインの末裔」の主人公仁右衛門、野間宏「真空地帯」の主人公木谷上等兵をおもいだしました。
次の一節は、しみじみと情景が浮かぶ夜のシーンです。

「あゝあ」と吉田は両腕をぬつとあげて、大きな溜息をしてから外に出た。山の中腹に稲妻形につけた道を、鉱石箱を背負つて登り降りする掘子の持つたカンテラが、闇の中に狐火のやうにちらついてゐた。真黒な山に周囲をかこまれた空を仰ぐと、星ばかりいかめしく光つて――静まりかへつた夜の沈黙を、どこかの坑内でかけた爆発薬(はつぱ)の響が、一時に凄まじく破つたが、響が消えると同時に死のやうな静寂に返つて来た。

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