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漫画家まどの一哉ブログ

   
「坑夫」
読書(mixi過去日記より)
「坑夫」
宮嶋 資夫 作


大正時代のアナキスト小説家、宮嶋 資夫(みやじま すけお)の処女小説作品。
坑夫石井金次はその攻撃的な性格から、炭鉱内でたびたび問題を引き起こしていた。彼は虐待され搾取される自身の労働環境に深い憤りを感じつつも、声を上げようともしない探鉱者仲間たちにも煮え切らない思いで、ふだんから睨む様な目つきで仲間に接し、酒をくらい、暴力をふるい、人の女房をかどわかすのだった。炭鉱内で孤立してゆく男の破滅に至るまでの心情をリアルに追った名作。

もしこの作品を労働者を描いたという褒め言葉で、プロレタリア文学の枠組みに入れてしまうとしたら、もったいない話。確かに虐げられつつも立ち上がることも出来ない、炭坑労働者の実態そのものは描かれているが、それはそのこと以上のものではなく、この作品の魅力はなんといっても主人公石井の人物造形にある。この無学で短気で、鬱屈した感情をつねに暴力に置き換える、この人物の屈折した心理がいたいほど伝わってくる。この性格設定は別に労働者に限定されるものではなく、それこそ資本家でもいいわけだから、やはりすぐれたプロレタリア文学というものは、単純に労働運動に目的化されない深みを獲得しているということでしょう。ボクは有島武郎「カインの末裔」の主人公仁右衛門、野間宏「真空地帯」の主人公木谷上等兵をおもいだしました。
次の一節は、しみじみと情景が浮かぶ夜のシーンです。

「あゝあ」と吉田は両腕をぬつとあげて、大きな溜息をしてから外に出た。山の中腹に稲妻形につけた道を、鉱石箱を背負つて登り降りする掘子の持つたカンテラが、闇の中に狐火のやうにちらついてゐた。真黒な山に周囲をかこまれた空を仰ぐと、星ばかりいかめしく光つて――静まりかへつた夜の沈黙を、どこかの坑内でかけた爆発薬(はつぱ)の響が、一時に凄まじく破つたが、響が消えると同時に死のやうな静寂に返つて来た。

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