漫画家まどの一哉ブログ
「賢者ナータン」 レッシング
「賢者ナータン」
レッシング 作
(岩波文庫・笠原賢介 訳)
イスラムの名君・ユダヤの商人・十字軍の騎士。多彩な人間が集まる12世紀末のエルサレム。それぞれの宗教の理念を超えて平和をもたらす賢明な方法とはなにか。
ドイツを代表する啓蒙思想家であるレッシングが、キリスト教・イスラム教・ユダヤ教をテーマに描いたとなると、なにか説教くさいパターンに落ちいっているのでは?と案じたが、さすがにもとより劇作家志望のレッシング。人間くさい連中の活躍で充分に楽しめる。
さすがに賢者と言われるだけあってユダヤ教徒ナータンは、ユダヤ教ばかりでなくキリスト教・イスラム教も、宗教の構造というものは同じであるという寛容な態度である。ここには作者レッシングの周辺他宗教も踏まえて全ての宗教を対象化してとらえる優れた視点があり、現在の我々読者から見ても清々しい思いだ。
統治者であるイスラム教徒サルタンも理解ある柔軟な人間。一人興奮しているのがテンプル騎士団の青年騎士で、彼の揺れ動く心がドラマを面白くしているようなものだ。その他、托鉢層や修道士など各派フリーな立場の人間がいい味出している。エルサレムはやはり多様性を尊ぶ寛容な街であってほしい。
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