漫画家まどの一哉ブログ
「未来の回想」クルジジャノフスキイ
読書
「未来の回想」
「未来の回想」
ジギズムンド・クルジジャノフスキイ 作
80年以上前に書かれて現代によみがえった、まさに作品自体がそれである独自のタイムマシン小説。いわゆるSF小説の範疇に間違いなく属するにしても、まったく痛快な読み物ではなく、どちらかというと詩的言語を駆使して展開される世界は、読みにくいものだ。「トラックは蒸留酒を飲むのをやめると、酒臭い口臭を吐き出していた。屋根の勾配の上では、ラジオの音が、針金製の蜘蛛の巣を編みはじめていた。円口類の伝声管が周囲に何千という貪欲な耳殻を集めていた。バスの雄牛が、膝のスプリングを痛めながら、窪みから窪みへと体を揺らしていた。」など、けっして悪くはないが情景描写をことごとく何らかの比喩で表現しなければならないとも思わない。
それより時間に関する物理学的・数学的論理展開にもページが割かれており、その辺りは小説に馴染んでいる感じはまったくせず、自分などはおおいに苦労した。それでも通常の小説のように、主人公がタイムマシンを仕上げるまでの世間的苦労、金銭的苦労は、ソビエト革命へと移り変わる歴史的背景の中で面白く描かれていて、そこは読み慣れた小説のたのしみがある。
まさに混淆といったおもむきで、なんとか読み終えることができたものの、個人的には初めて食った外国料理のようなもので、咀嚼に時間がかかる。
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