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「幻滅」メディア戦記

読書

「幻滅」メディア戦記  バルザック 作

 

バルザックの人間喜劇シリーズの中核となる長編。「メディア戦記」の副題からも分かるとおり、19世紀パリの新聞・出版界を舞台にその腐敗した構造を暴きだす傑作である。主人公はフランスのアングレーム地方に暮らす青年詩人のリュシアン。そして友人のダヴィット。

 

リュシアンの類い稀な文学的才能を理解するのは、田舎では地方貴族のバルジュトン夫人ばかり。これはぜひ夫人の愛人となってパリへ打って出て貴族社会の仲間入りを果たし、作品を上梓して中央文壇へ躍りでないではおくものか。と、この二人が愛情を育んでパリへ打って出るまでのシーンが思いのほか長くてやや退屈したが、もともと独立した作品だったようだ。

 

ところがパリへ出てみると自分たちはしょせん田舎者で、バルジュトン夫人は一応貴族ではあるものの都会のきらびやかな女性たちと比べてあまりにみすぼらしかった。一方天才詩人のはずのリュシアンも一応その文才を認められはするが、ジャーナリズムに使い捨てにされて終わる。

このあたり作者バルザックの若き苦闘の日々が忍ばれる。文学者とジャーナリストでは資質がかなり違うと思うが、同じ文筆という畑で今日でも両者を兼ねて仕事している人は多いかもしれない。

リュシアンはカネ次第で舞台や書評を持ち上げたりこき下ろしたり、自由派についたり王党派についたりと、ジャーナリズムの世界に翻弄されて結果失敗するわけだが、このあたりの駆け引きも読んでいて分かりにくい。それは新聞社を経営する権利や、出版のいろんな形のマージンの取り方などがからむせいで、そのリアルさがバルザックのオモシロさでもあるわけだけれども…。

 

つまりがこの作品はバルザックの得意な経済小説なんである。物語後半はアングレーム地方でのリュシアンの友人ダヴィットとその妻が小さな印刷屋を営む苦労話だが、ダヴィットもリュシアンと同じく商売にはてんで向いていない夢想家で、経営はそっちのけで新しい安価な印刷用紙の開発研究に没頭している。この研究成果と印刷屋の権利を奪うべく、ライバル会社や代訴人などが権謀術数をくりひろげるが、お人好しのダヴィットはたわいもなく引っかかってしまうのだ。このあたりも手形のやりとりなどが頻発して一読では理解できない。自分もこのダヴィットと同じく商売にはてんで向いていないことがわかる。

 

結局バルザックの世界では、人間は欲望のためならなんでもやるし、それは世間の裏側で巻き起こることで、これこそが人類の本当の歴史だということだ。バルザックのオモシロさはここにあります。

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