漫画家まどの一哉ブログ
「セビーリャの色事師と石の招客」 ティルソ・デ・モリーナ
「セビーリャの色事師と石の招客」
ティルソ・デ・モリーナ 作
(岩波文庫・佐竹謙一 訳)
17世紀前半、興隆するスペイン文学に生まれた元祖「ドン・ファン」の物語。観客へのサービス精神たっぷりに書かれたティルソ・デ・モリーナの戯曲世界。他一編。
かなり大味な展開で、そんなにも簡単に多くの女性が騙されるのかという疑問を抱きながらも「ドン・ファン」の悪行はどんどん進む。観客にとってはこれくらいのわかりやすさが痛快だろう。口先だけで複数の女性に結婚の約束をして関係を持つが、その末路は幻想的な怪談となっていて驚いた。
話を面白く持っていくのは従者(下男)たる男の存在で、主人「ドン・ファン」の背徳ぶりをいちいち嘆きながら指示に従っているのが薬味の如く効いている。併録作品「緑色のズボンをはいたドン・ヒル」でも、登場する貴族それぞれについている下男の存在が、主人の奇行ぶりを際立たせている。
「緑色のズボンをはいたドン・ヒル」は、真正ドタバタコメディで新喜劇のようなもの。男装の麗人が巻き起こす複雑な恋愛模様と嫉妬や裏切り。恋愛関係がかなり複雑に入り込んでいるのでやっかいだが、ラストは簡単にめでたしめでたしになるのが安心して見ていられるという仕組みです。
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