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漫画家まどの一哉ブログ

   

読書
「夢小説」 
シュニッツラー
 作

医師フリトリンは、愛していながらも実は揺れ動いている妻アルベルティーネの本心を打ち明けられて、夫婦間の愛に虚無的なものを覚えた。彼を慕っていた患者宅の娘を袖にして、下町の娼婦と一夜を共にするが、それでもまだ心は晴れない。

そんなとき旧友のピアニストに再開し、秘密の仮想舞踏会が開かれていることを知る。旧友に頼み込んで合い言葉を教えてもらい、自身も仮装してこっそりとその仮想舞踏会にまぎれ込んでみると、男達はほとんど仮面をつけた僧服姿。そして女達は顔に仮面と薄いヴェールをつけたほかは一糸まとわぬ姿のまま、ダンスパーティーが始まったのだった。

そのとき医師フリトリンは一人の女性に「ここにいては危険だからすぐに逃げるように」と再三忠告されるのだが、全裸の女性にそんなことささやかれても冷静でいられないよねえ。結局フリトリンが闖入者であることはバレるが、その謎の女性が身代わりとなって、彼は暴力も受けずに会場から追い出されただけですんだ。

その後懸命に謎の仮想舞踏会の正体を探ろうとするが、身の危険をおぼえるだけで結果は得られず、しかも謎の女性は死を持って報われたかもしれず、謎は謎のまま再び日常が始まろうとするのだった。

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タイトルもないが、話の意味が分からない。


  

花屋の前で交通事故が頻繁に起こり、救急車や新聞記者が出動する。
その後取材内容が調べられているらしい。
変わって病院では3段ベッドに寝かされて療養している。
1964年頃のはず。

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読書
「真昼の暗黒」 
アーサー・ケストラー 作


アーサー・ケストラーといえば「偶然の本質」などスピリチュアル研究者だと思っていたが、こんな壮絶な内容の小説を書いていたとは。まさにソビエトにおいてスターリンの独裁体制が確立してゆく、その粛正の恐ろしさをブハーリンの運命をモデルに描いた社会小説。革命後の政権にあって枢要な役割を演じた主人公ルバショフ(ブハーリン)もナンバー・ワン(スターリン)の容赦ない権謀によって独房に監禁されている。始めから終わりまでこの独房生活が話の中心だがまったく退屈しない。壁をコツコツとたたく回数でアルファベットを現す秘密の暗号があり、独房同士はこの方法で通信することが出来る。監獄での出来事は一斉に伝わるのだ。


主人公ルバショフと同じ革命世代の幹部は、反革命的計画を自白することによって、まんまと極刑を免れる方策を彼に示唆した。だが時代は既に変わっていて、革命前夜を知らない若い指導者達は彼ら旧世代を一掃する意味で容赦なく死刑を宣告していく。若い世代の信念はこうだ。「歴史の中でたった一国立ち上がった社会主義国ソビエト。これはほんとうの世界革命が成就するまでなんとしても倒れてはならない。ナンバー・ワンのもとに結集しプロレタリア独裁・共産党政権を絶対守り抜かなければならない。」だが、そうやって死守した国家はもはや後世に残すべき意味のない醜悪なものに成り果てていたわけだった。連日連夜の尋問で主人公が自白に至る過程はリアル。そして暗黒裁判へと進む。


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これもおそらく自分が6~7歳の頃に書いたものと思われます。

最初の見開きはほぼサイレントで、非常に怖い内容の本に悩まされる様子が描かれます。

ところが次の見開きになると、一転して饒舌になり、アホダラ経のようなリズムでもって、この怖い本の由来が語られるといった趣向になっています。当時なんの影響を受けてこんな表現をしたのか、今となってはわかりません。未完です。

   
  

2見開き目から

10「キャー」

11「うわーん、やってきました。と、とうとうこの一瞬のこの怖さ。やった、見た見た。見た見たよ。こんな怖い本を誰が書いた。か、書いた。」

12「はいはいそれは私です。とうとう来ましたこの時が。そのほか来た見たこの本を。「ミイラの世界」に「骸骨市民」、「怪物ニラン」に「地球の最後」。見た聞いた、この話。ハイハイ」

13「バカ野郎、カバ野郎。耳の骨から足の爪。ツーンときたよ、この怖さ。おかげで今夜は眠れない」

14「まあ、おやなんと、なんとなん。私の書いたこの本にケチを付ける気、マントヒヒ。10年9年2年かかって完成したのよこの本は。」

15「早よ行ってこい、バカ野郎。ウチに入ると汚れるわい。この本もやぶいて燃しちまう」

 「ひゃあ神様、ほとけ様」

16「夜中自分の心に話す声。悪魔とはこれだ、これですよ」


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同じ紙に東京オリンピックの漫画が描かれてあるから、
おそらく自分が6~7歳の頃に書いたものでしょう。
おもしろいからアップしてみました。シリカゲル…(笑)



冒険小説

「赤く光る不思議な少年」


:10月2日酒井という新聞記者が、日本の離れ小島へ行ったとき、赤く光る不思議な島を見つけた。酒井はすぐその島へ行ってみた。木も草も赤く光っている。

:酒井がその草にさわると、酒井の身体が小さくなり、声の出ない真っ赤な少年になってしまったのだ。その三日前に、赤いダイヤモンドがその島に流されたという。しばらくすれば隊員がダイヤモンドを探しにくるだろう。さて酒井はどうするか。

:二・三日経つと隊員がやってきた。そしてダイヤモンドにシリカゲルをふった。すると酒井の身体が普通に戻った。でもまだ三・四人赤い少年が立っている。いったいどうしたのだろう。


なぜ赤い少年ができたのだろう。

なぜダイヤモンドにシリカゲルをふると、治ったのだろう。

……………。

つづく


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読書
「文藝春秋・短編小説館」


1991年発行の当時「文藝春秋」に掲載された作品を集めた短編集。作家は丸谷才一、安岡章太郎、藤沢周平、大江健三郎、吉行淳之介、村上春樹、三浦哲郎、田久保英夫、大庭みな子、遠藤周作、河野多恵子、瀬戸内寂聴、古井由吉、日野啓三、吉村昭。


この後あれよあれよという間に何人も死んでいく。多くが晩年の作品だ。

さすがに才能豊かな作家も晩年になると想像力が失われてしまうのか、小説といっても身辺雑記的なものが多い。この短編集の中でも安岡「叔父の墓地」、吉行「蝙蝠傘」、瀬戸内寂聴「木枯」など全くその類いでエッセイというならば申しぶんないのだが、これを小説といわれると違和感がある。伝統的に私小説という分野があるにしても、自己の生き様に迫るといったギリギリ感もない。もっとも安岡の文章は自分にとっては絶品というやつだ。


河野多恵子「怒れぬ理由」なども、あまりにも細々とした私生活が描かれていて、他人にとってはまったくどうでもいいハナシだ。社会階層も私とは違っていて困ったもんだ。ただ作者特有の霊魂観がおもしろくて要約すると、「霊魂は多分に無機的な電気の一極のような性質を持っていて、縁あった生者が故人のことを思い出したり語ったりすると、それに反応して電流が通じる。これを感知できるのは生者の側だけである。生者がしだいに亡くなって故人を偲ぶ人が誰もいなくなれば、霊魂は消滅する。」というものである。


この顔ぶれの中では一番若い村上春樹「トニー滝谷」がいちばん小説らしい小説で面白かった。

村上春樹「トニー滝谷」:ジャズミュージシャンの父親にトニーという名を付けられた主人公。テクニカルイラストレーターの腕を活かしてひとりぼっちの人生を歩んできた彼。初めて惚れて結婚した女は狂ったように洋服を買ってしまう女。彼女が亡くなった後、残された山のような洋服の中で本当の孤独が胸にせまる。

三浦哲郎「添い寝」:温泉地で働く巴。彼女の仕事は70歳以上の老人男性限定で一晩添い寝するという変わったものだ。朝起きると隣の老人が冷たくなっていることもある。そんなある日、むかし東京の出版社で働いていたときの同僚が訪ねてくるが、彼女はまったくさばさばしたものである。人生の変転を描くもユーモラスな一品。

遠藤周作「取材旅行」:作者は取材のため土地の人間ですら知らない戦国時代の城跡や屋敷後をめぐる。若き秀吉が仲間の蜂須賀小六たちと奮闘した、小牧・犬山あたりの小城主達とのかけひきが明らかにされて興味深い。


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読書
「モーパン嬢」 
テオフィル・ゴーチェ 作


詩人ダルベールは理想の女性を追い求めてやまない青年だ。女性に対する美学には大変厳しいものがある。ロゼッタは完璧には理想の女性ではないが充分魅力的な女性で、彼らは付き合ってはいたが、本心では愛し合ってはいないことがだんだんと明らかになってきた。そんな時に現れた騎士テオドール。彼はロゼッタがずっと心慕っていた永遠の恋人であり、ダルベールにとっては男ながら虜にされる程の魅力的な紳士だった。それもそのはず騎士テオドールとは、実は男勝りの令嬢マドレーヌ・ド・モーパンその人なのである。しかも連れている小性すらが男装の少女なのだ。この摩訶不思議な恋愛模様の結末やいかに!


というわけで、ほんとうは恋愛ものはさしたる興味もないのだけど、展開が面白くて読んでしまった。ふつうの地の文もあるが、手紙の形式で書かれた章や、セリフで綴られた章など、手を替え品を替えの工夫満載だ。主人公のモーパン嬢が男に変装しているので、バレやしないかとこちらはドキドキする仕掛けになっているのだ。


この時代(19世紀フランス)に男性的な気質を持つ女性を登場させたゴーチェの人間観が鋭い。女同士のキスや触れあいなどのからみもあるが、結局モーパンはダルベールに身体(処女)を捧げ、ベッドシーンの描写もちゃんとある。

実はこの小説、長過ぎる序文がくっついていて、そのなかでゴーチェは昨今の文芸評論家の道徳家主義を猛批判している。小説や芝居には強姦も殺人もあってあたりまえで、説教臭いこと言うな。といった論旨。そんなわけでこの作品もしっかり性愛を描いているのです。でもあんまり売れなかったそうです。とほほです。


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アベシンとは伝説の漫画家安部慎一であるが、新刊「世の終りのためのお伽噺」贈呈への礼状FAXが編集部へ届いた。これが相変わらずのくずし変体仮名の達筆でさらりとは読めない。時間をかけてなんとか読み解いたものが以下。



「手塚様 まどの様


先程はTELで失礼しました。

まどのさんの作品が後世に残る為には

まず、背景や人物に対する
愛情が必要だと思います。
しかし、そのまま進めば、一流の
漫画家には成れます。
モデルに対する美意識、

又、背景に対する感動、

それらが、芸術を成す

基本だと私は信じています。

次の単行本を今やロートルの

私の年に影響を受けず

頑張って下さい。

ありがとうございます。」


というわけで、アベシンの文章はしばしば理念的・観念的でたいして面白くないのだが、これは氏が宗教に凝る気質であることと同じ面の現れのような気がする。2010年の「月刊架空7月号:安部慎一特集」のインタビューでは、しごくまっとうなことを喋っているのに、文章を起こすとなると構えてしまうのかもしれない。


ところで先日のオージといいアベシンといい「ガロ」が生んだ天才漫画家で、作品は必ず後世に残ることは自分は若いころから信じてたが、この2013年においてどれだけ多くの読者に共有されているかというと、まったく情けない状況だ。つげ義春以降の表現といっても、結局コップの中のさざ波で終わっているんじゃないか。知り合いばかり集まってる文芸運動みたいだ。やれやれ。


と愚痴ってみましたが、それはさておき「月刊架空7月号」のインタビューは、ファンおよび研究者必読の内容なので今からでも買って下さいね。楽しいよ。


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西荻窪「のみ亭」で行われた鈴木翁二ライブ「レモン殺人事件」に行ってきた。


翁二さんに会うのはひさしぶりだが、残された人生、会えるうちに会っておいたほうがよいと思ったのだ。梶井基次郎の世界を追いかけながら、自作の歌を歌うイベント。確かに梶井作品に対する氏独特の思いが語られたようだが半分聞いていなかった。翁二さんの唄はどれもみな寂しさの美意識に貫かれたもので、曲も歌声も漫画作品そのままの世界だ。歌も漫画もイラストも全て鈴木翁二の個性で通底されているのだった。まあどれも同じような曲だが、曲が変わらないのはギターが変わらないからということだった。


今回の翁二さんの上京は亡くなった漫画家の白山宣之を追悼する為と、限定本「うみのきらきら」の完成原稿を手渡す為だった。氏は白山さん周辺の方々と歓談していた。自分は今回は挨拶くらいにして引き上げました。果たして「うみのきらきら」完成原稿の行方はいかに?ほんとに完成するのか?


これぞ世界に出して恥ずかしくない日本の漫画でありながら、まるで日本人共有の財産となっていない鈴木翁二作品。いまや若い読者が目にする機会も少なく、このまま忘れられていくのでありましょうか???


 


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読書
「信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス」

宇月原晴明 作


ローマの変態皇帝ヘリオガバルスによって奉じられた牛頭人身の両性具有神バール。このシリアの荒ぶる古代神は、尾州津島の牛頭天王(ごずてんのう)と同体であり、1千年後織田信長によって奉られたのではないか?そして実はヘリオガバルスも織田信長も両性具有者(アンドロギュヌス)だったのではないのか?ベルリンで謎の日本人青年の訪問を受けた前衛詩人アントナン・アルトー。二人はこの信長伝説を証明するべく、しだいに親交を深めていく。だが実はそこにはナチスとヒットラーによる罠が仕掛けられていたのだ。


ナチスが台頭するドイツと、戦国時代の日本を往還して進行する奇想天外なストーリー。東西の古代神話をひもときながら仮説どうしを結びつけていく作業は、しょせんエンターテイメント上のこじつけであり、そのまま語られても退屈なものになりがちだが、どうしてナチとアルトーのスペクタクルなんかも取り混ぜてあって、なかなかに面白い。

それよりも半分以上を占める信長vs戦国大名のせめぎ合いが、ふつうのエンターテイメント歴史小説として出色の出来でわくわくする。司馬遼太郎と山田風太郎の忍法帳シリーズを合わせたような楽しさがあった。


これだけの奇想小説だが、あくまで娯楽のために計算されて仕掛けられているので、奇書といった感じはしなかった。小説における文体は漫画における画質と同じで、エンターテイメント小説には個人的に受け付けないものが多いのだけれど、この文体は気持ちよく読めた。と、これはあくまで個人的な話。



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