漫画家まどの一哉ブログ
「スターバト・マーテル」 桐山 襲
「スターバト・マーテル」
桐山 襲 作
(河出文庫・1991年)
経済的繁栄の裏側で取り残されてゆく人々を、現実から解き放ってよりリアルに描いた魔法のような作品群。
「スターバト・マーテル」:高度成長期からバブル以前までの、復古的保守政権vs抵抗運動の構図は、雰囲気だけは体感しているので戸惑うことはなく読めた。単純な政治的作品などではなく、14人の活動家の亡霊がいくども甦る夢幻的作品。折り重なるように立ち上がる幻想。社会派文学として読むかどうかは読み手次第。
「旅芸人」:1960年韓国。今や解散寸前の旅芸人一座。曲芸師や占い師、火吹き男や双子姉妹の美声デュエットなど個性的な団員たちだが、団長を筆頭にみな悲しい人生を背負っていて哀感迫る。時代は変わろうとしていて、韓国もイルボンのように人工的な血の通わない国となっていくのだ。
「地下鉄の昭和」:昭和最後の日。変われない人生を抱えて戦後を生きる人々。若くして戦死した夫に話しかける妻。士官としての軍人精神のまま昭和を生きる男。偶然二人は同じ日に年に一度靖国神社へ向かう。わかりやすい構図と言えばそうだが、小説は構図を読むことがゴールではない。
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