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漫画家まどの一哉ブログ

   
「暗室」吉行淳之介

読書
「暗室」 吉行淳之介 作


吉行なので言わずと知れた肉体関係の話だと思っていたら、はたしてそうであった。
それでも最初のほうのエピソードでは、主人公の青年時代に田舎の親戚の子だくさんの家で何日か静養していると、白痴に近い少女がひっそりと屋根裏部屋で暮らしているのに気付く。その少女は実はある有名な理学博士の妹で、若くして博士号をとった天才理学博士は、卑劣過ぎると噂される人間なのだ。
まるで横溝正史のようなおどろおどろしい話がこのあとどう繋がるのだろうかと期待していると、この話はこれっきりなのである。そしてけっきょく主人公と複数の女との愛をともなわない肉体のああだこうだだけがつながって行き、やはり吉行は得意なものしか書かないのかなと思った。


肉体以外の関係を持とうとしない男と女の心情を理解できる自分ではないので、ここからこの主人公の男(作者)の虚無と孤独を感じられるのかと言えば正直わからない。主人公は欲望のままに女の体を貪っていても、ああ楽しい楽しいというわけではない。相手の人格ごと愛することができないのだから、結局孤独感しか得られないのはあたりまえで、自慰行為と同じ理屈だ。そして実はほんとうは誰しもそうなのかもしれない…というところが実に吉行文学であるわけで、なんとも虚しい営みではある。


吉行の性的描写はエロチシズムとはまるで違う寒々としたものだから、耽美小説を読むようなノリでは歯が立たないのだが、この人間観に同意できるとすれば読む側の体質であるしかない。子供を作って人生を建設していくこととは真逆の、虚無を確認するためのようなセックスを読ませられて読んでしまう。それが楽しいわけではないから不思議なものである。

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