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「死霊の恋/化身」ゴーチェ恋愛奇譚集 テオフィル・ゴーチェ

「死霊の恋/化身」ゴーチェ恋愛奇譚集
テオフィル・ゴーチェ 
(光文社古典新訳文庫・永田千奈 訳)

19世紀後半フランス幻想文学のエース、ゴーチェの恋愛をテーマにした代表的3編を収録。

久しぶりにゴーチェを読んで、さすがに安定した面白さだった。文庫解説によるとゴーチェは単に作家であるだけでなくジャーナリスティックな仕事を多くした人で、芸術分野の公的な役職にもついている。そう言われてみれば、ゴーチェの作品は冷静に計算された落ち着いた作風であり、社会的異端者による狂気を孕んだタイプではない。この点は以前は気付かなかった。

この本は全て男性主人公が魅惑的な女性に恋をする話である。これはこの時代のこの手の設定の定番、あるいは上流有閑階級が舞台であるせいかもしれないが、女性への恋がほとんど容姿への執着であり、いかに優れた他に類を見ない絶世の美貌であるかが筆を尽くして語られる。それだけで主人公の男性にとっては一生をかけてその女性の愛を得る理由になるのだ。
これは女性のトータルな人格を無視した、あまりにも失礼な女性観と言えるが、はたしてまだまだ社会がそういう時代だったのか、小説ゆえのおなじみのパターンだったのかわからない。

「死霊の恋」は悪霊・吸血鬼譚、「アッリア・マルケッラ」はタイムスリップ譚で、どちらもその後の怪奇小説のベースとなった作品かもしれない。「化身」のラストは果たしてハッピーエンドなのか、呪術使いの邪心ある医師のみが得をしている気がする。

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