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「夫婦の一日」 遠藤周作
読書
「夫婦の一日」遠藤周作 作
(新潮文庫)

50代後半から60代。人生の円熟期を迎えてなお、自身の利己的な欲望を見つめるクリスチャンとしての日々を描いた短編集。

これらの短編が書かれたのは1980~83年。
「六十歳の男」:60歳を迎えた自分がいかにも死を前にした晩年のごとく描かれている。しかし作品中触れられるJRのフルムーンパスキャンペーンが82年で、その条件が夫婦合わせて年齢が88歳以上であること。それらも含めて今から40年前の60代がいかに老人だったか驚くべきものがある。60歳になって街で知り合った女子高生を凌辱する妄想を離れがたい自分を追い詰めているが、読後感は気持ちの悪いものである。

「授賞式の夜」「ある通夜」:作者は50代半ばだが、道ならぬ性的な衝動や残酷な本心を省みる内容。これも50代半ばにもなって人生も終わりに向かっているのにという設定が、現代の50代の感覚と随分違うなという気がする。これらの反道徳的な衝動は多くの人間にあるだろうが、カトリックであるからこそより倫理的な悩みとなるのか。

「日本の聖女」:これだけが異質の時代劇で、細川ガラシャを題材に、日本人のキリスト教信仰における仏教的逃避をみたもの。テーマに沿ってしっかりと構成された好短編だが、私小説風の作品を読んだ後ではやや堅苦しい印象になってしまった。

全編なかなか悩ましい内容だが、表題作含めて文章には日常の時間がゆっくりと流れていて心落ち着く。

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