忍者ブログ

漫画家まどの一哉ブログ

   
「出来事」 吉村萬壱
読書
「出来事」吉村萬壱 作
(鳥影社)

いつのまにか世界はニセモノにすり替えられている。果たしてそれは脳内の齟齬なのか現実なのか?しだいに壊れていく日常が痛々しい暗黒小説。

先に読んだ「回遊人」とほぼ同じ設定なので、ひょっとしてこちらのほうが更に作者のやりたかった仕上がりになっているのではと思って読んだ。冒頭から3章は前作と同じような人物が出てくるが、男はこの世界がニセモノだと感じている病的な設定。しかし妻は色情狂だし実弟は野人のような体の人間で、3者の言い分が食い違うところはなにがほんとうの現実かわからず幻想文学のような味わい。

ところが人物が隣人の主婦とその娘家族に移って行くとその味わいは変わってしまう。なにやら感染症のために閉鎖された地区があるらしく、感染症をめぐってドラマは尻上がりに緊迫し社会はパニック状態になっていく。これで正常な主人公が危機を脱出するべく頑張っているとSFエンタメのごとく安心して読めるのだがそうはならない。まともな大人はいないのである。

全編不気味なまま進行し気持ちの抜けるところがなく、人間のいやな部分が数珠つなぎとなった印象。執拗で異常なセックスや残酷で痛々しい暴力などが容赦なく描かれ、なかなかに読み進むのがキツかった。
この世界がニセモノであるという感覚は感染症に罹患したからだとはっきりと書かれていないところが良い。本当の世界の残酷さに人は耐えられず、頭の中で世界を作り上げることで成り立っているというのは重要なテーマだが、そんなテーマ小説として読む必要はない。小説は味わうものだから、ただ日常に侵略してくる暗黒を味わえばよいのだった。

拍手[1回]

PR
  
COMMENT
NAME
TITLE
MAIL (非公開)
URL
EMOJI
Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
COMMENT
PASS (コメント編集に必須です)
SECRET
管理人のみ閲覧できます
 
カレンダー
10 2024/11 12
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
フリーエリア

「世の終りのためのお伽噺」
アックスストア
「洞窟ゲーム」
アックスストア 西遊
「西遊」
amazon ヨドバシ.com
アックス75号
アックスストア

祭り前

秘密諜報家
最新コメント
[08/13 筒井ヒロミ]
[02/24 おんちみどり]
[05/10 まどの]
[05/10 西野空男]
[01/19 斎藤潤一郎]
最新トラックバック
プロフィール
HN:
madonokazuya
性別:
非公開
自己紹介:
漫画家
バーコード
ブログ内検索
カウンター
アクセス解析
カウンター
カウンター
フリーエリア
Copyright ©  -- まどの一哉 「絵空事ノート」 --  All Rights Reserved

Design by CriCri / powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]