漫画家まどの一哉ブログ
「モンスーン」
ピョン・ヘヨン 作
(白水エクスリブリス)
ただただ繰り返される不毛な日常が、ふとしたことから理不尽なトラブルに巻き込まれて暗転する。現代韓国文学。
同じことが日々疑いもなく繰り返され、不毛であっても抜け出すことができない。このややシュールで戯画的な日常設定をベースに、不条理というほどではないがなにかしらうまくいかない、ボタンの掛け違いや噛み合わない歯車のような出来事が起きるが、やがて燃え広がる。どの短編もそんなグレートーンを基調にした世界だ。この種の作風を得意とする作家も多いだろうし自分の好みでもある。なかなかに辛い内容だがスラスラと流れるように読める。
「散策」:上司の紹介で入居した賃貸住宅。豊かな自然に囲まれて平和に暮らすはずが、愛くるしい大型犬が放し飼いにされており、妊娠中の妻に耐え難いストレスをもたらす。家賃を払っているのになんの文句も言えない。会社関係で家を選ぶべきではない。事態は悲惨化する。
「ウサギの墓」:一時的な移動である派遣先で、どうせ捨てねばならないウサギを飼ってしまう。一日中担当地域の情報を検索羅列して書類化する業務はほんとうに必要なのだろうか?周りの社員も彼に指示を出す担当者も一時的な立場の人間で言葉を交わす同僚もいない。日常とは終わりなく虚無的なものだ。
「クリーム色のソファの部屋」:新居へ向けて車で移動中の夫婦。雨中での故障に弱って、廃業されたガソリンスタンドに屯っている半グレ風の若者に修理を頼んだが…。こちらの予想通りのイヤな展開となり読むのがつらかった。
「カンヅメ工場」:サバやサンマをひたすら缶詰に詰め、昼食も毎日会社の缶詰。日常の買い物も缶詰中心であり、誰も不満に思わない行きすぎた缶詰人生。缶詰には食品以外の服や下着や死んだ犬まで入れられ、かなり大きなものまで登場してますますシュールになっていく。