漫画家まどの一哉ブログ
「ゴールドラッシュ」 柳美里
「ゴールドラッシュ」
柳美里 作
(新潮文庫)
パチンコチェーン店経営者の家に生まれた少年。年齢不相応な大金を自由に使い、父親に愛されないながらも後継者としての扱いを受ける。崩壊する家庭の中で、世界から孤立する少年が守ろうとしたものは?
巨万の富を築いたパチンコ店経営者の周辺にたむろする強欲な大人たち。横浜黄金町で中華屋に集う貧しい人々。そしてついに起きる家庭内殺人事件。昔の青年漫画誌を読むようなエンターテインメイト風味がふんだんにあり、愛人や不良少年、やくざくずれや刑事など、やはり典型と言えばそのとおりの人物だ。しかも殺人事件の推移がストーリーにあるのでその面白さだけでも読めてしまう。
ところがそれとは別に主人公の少年をはじめ、理解者である黄金町のやくざくずれの男、孤児である少女など、彼らの迷いや苦闘がひしひしと迫るように描かれていて魅了される。全く典型ではない。こんな特殊な環境で育った少年の内心がよく書けるなと思う。子育てに関しては親はなにするかわからない。子は覚悟するしかない。
これがこの作品の本質であり価値であり、同時にエンタメである。こんな離れ業もあるのだ。
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