漫画家まどの一哉ブログ
「アサイラム・ピース」
読書
「アサイラム・ピース」 アンナ・カヴァン 作
作者の日常をもとに描かれた短編集。具体的に日々の暮らしがどうだからという話ではなく、精神的に孤独と絶望でもういっぱいいっぱいの状態だ。どうして誰も救いの手を差しのべてくれないのか。這い上がろうとしても更にどうしょうもない状況へと追い落とされる。その悲嘆と喘ぎがくりかえし描かれるが、具体的にはまるではっきりしなくて闇の中を行くようだ。
自分を連行しにくる敵とは誰なのか?なぜ当局に召還されるのか?突如現れたメッセンジャーに渡された錠剤とは?なぜ人生を終わらせるための判決が届くのか?非常に不条理な出来事ばかりだが、輪郭が茫漠として抽象的で悪夢を見ているとしか思えない。幻想文学と言えば言えるが幻想を楽しむ余裕はなく、私小説だと言ってもいいが生活感がない。せっぱつまった精神状態なのに架空の設定が仕組まれている不思議な作風で、幻想的でありながら迫真的な魂の叫びに心うたれる。
表題作「アサイラム・ピース」は8編の掌編から成る短編で、湖のほとりの精神病棟で暮らす人々の病んだ魂を、正確に客観的に描いて慄然とする。逃れよう逃れようとして逃れられない患者たちの悲しい日常が、まったく他人事とは感じられかった。
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