漫画家まどの一哉ブログ
「わが子キリスト」 武田泰淳
読書
「わが子キリスト」武田泰淳 作
ユダヤを支配するローマ軍隊長の語りという体裁で書かれた小説。隊長がマリアに生ませた子供はイエスとなって神の子を名乗る。ローマ政府最高顧問官は隊長にイエスを利用してユダヤ人の精神的支配を命令。あえて裏切り者となってユダヤを救おうとするユダ。そしてイエス復活の真相とは。
ここまで大きな歴史的テーマを扱った作品だと当然ながらリアリズムではない。凡人の日常感覚をそのまま綴ったようなものと違い、日常からは遠い舞台の上にわざわざこしらえたものなので、当然セリフは説明だ。もちろんそこは説明的な印象はまったくなくワクワクと読めるが、登場人物が社会・民族・政治に関して喋るとき、そこには作者の思想が自ずから立ち現れていると思おうじゃないか。
そしてこれを政治・社会・キリスト教などに対する問題意識を持って読むか、それらを除いても十分楽しいエンターテイメントとして読むかは、読む方の問題であり作品評価とは別であろう。生々しい政治経済とそれらを超越する精神性との相克を読み取ることは正解かもしれないが、ああイエスは政治家に利用されたんだなあぐらいでも良い。なんとなくそんな気がした…でも良い。ただしイエスは出てこない。
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