漫画家まどの一哉ブログ
「みいら採り猟奇譚」 河野多恵子
読書
「みいら採り猟奇譚」 河野多恵子 作
「みいら採り猟奇譚」 河野多恵子 作
戦前から戦中にかけて、開業医の家庭に育った歳の離れた新婚夫婦のおはなし。相良外科病院のひとり娘比奈子は女学校を卒業するとすぐ前から家族間で決まっていたように、内科医の尾高正隆に嫁ぐが、こういう親の決めた早い結婚は当時ふつうの感覚だったのだろうか。
結婚後初夜から閨房のようすが描かれるところが珍しいが、実はこの夫がマゾヒストで二人の被虐加虐のバリエーションがしだいに発展していく。やがて夫は銭湯に行けないほど体中傷だらけとなってしまうのだが、SM描写はちっともいやらしくなく冷静な筆致で書かれているので、この二人がなんでこんなことをしているのか奇妙な感じがする。
ところがこの小説でそういったシーンはごくわずかで、大半はこの時代のちょっと生活にゆとりのある階層の細やかな日常生活である。身近な衣食住の工夫や買い物、親戚付き合い、近所付き合いなどがていねいに描かれていてたのしい。開業医の暮らしぶりが分かるし、だんだんと戦争に突入してゆく世の中の様子がリアルだ。
それだけでも楽しく読める話なのだが、なぜか夜になるとアブノーマルなことになって、この昼と夜がすんなりと繋がっているのがなんとも不思議な、そういう人間だからという理由でしか説明できない、人間ありのままでいいのだという世界だ。
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