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漫画家まどの一哉ブログ

   
「R62号の発明・鉛の卵」
読書
「R62号の発明・鉛の卵」
安部公房


安部公房は自分の守備範囲だが、面白かったりつまらなかったりする。これは初期短編集だが、いわゆる日本文学的情緒や日常生活感で読める作家ではないのはもとよりなので、発想の特異性が気にならない語り口でないと、自分などは読後殺伐としてしまう。シュールなものも現実の共同体が描かれているものもあるが、どちらかが必ず面白いわけでもなく、なにが自分にとって評価基準となるのか読んでいて自分でもわからない。それがいつも謎。とりあえず奇矯な設定を納得させるのは、リアリティというより文体なのかも知れない。発想主体の短編という作風は、自分と近いかもとは思う。

「鍵」:身寄りをなくした青年が天才的鍵職人の叔父を頼って訪ねてくるが、叔父は自分の発明した鍵の秘密を守るため、容易に打ち解けない。そして叔父のそばには人間ウソ発見器である盲目の娘がいるのだった。オチがあるが、なくてもよかった。

「鏡と呼子」:村の学校に新任教師として赴任したK。ところが校長や教員達、下宿先の長男と老婆など村人は皆猜疑心に取り付かれたようにお互いの動向を気にしている。もしシュールな漫画にねじ式ベースというものがあるとすれば、これは典型的なカフカベース。下宿先の長男が日がな一日、山から望遠鏡で村を観察しているというのが面白く、鏡と呼子は彼の連絡手段である。土俗的な雰囲気と、いろんなことがはっきりしないまま終わるところが味であると思う。これが一番おもしろい。

「鉛の卵」:タイムカプセルである卵形冬眠箱から出てみると、100年後の世界であるはずが80万年後だった。そこには葉緑素を持つサボテンのような人類が!主人公である古代人の生活がアイロニカルに無化されるSF短編の醍醐味あり。しかもちゃんとドンデン返し付き。

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