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漫画家まどの一哉ブログ

   
「暗夜」
読書
「暗夜」
残雪
(ツァンシュエ)作

幻想文学が好きだが、全く別世界の出来事を描いた安心して読めるファンタジーは自分の趣味ではなく、やはりこの世界と存在を揺さぶるような、現実に迫真する幻想の力がほしい。悪夢のような話は数多あるだろうが、他人事ではないのだ。そんな意味で誰しもそういうだろうけど、カフカ・ベケットに連なる作家、残雪(ツァンシュエ)は見落とせない。うかつだが今まで知らなかった。

「痕(ヘン)」:現代中国。独自の編み方でむしろを編み上げる職人の痕(ヘン)。隣家の鍛冶屋はなにやら痕(ヘン)に怒りを覚えていて、鎌を片手にギラリと光る鋭い目で痕(ヘン)を恫喝するのであるが、その理由はわからない。ある日やってきた買い付け人は、痕(ヘン)と契約を交わし、出来上がったむしろを全て高額で買い取っていくが、買われたむしろは荒れた裏山に無造作に捨ててあるのだ。また村の茶店の女将の亭主は寝たきりの病人だが、その亭主が訪ねるたびに違う人間になっている。
これらの謎は一向に解決されないままで、読んでいると不安で不安でしようがないが読まずにいられない。こんな不安な小説は井上光晴やカフカにもなかった。

「暗夜」:斉四爺(チースーイエ)に連れられて、猿山を見に行くことになった主人公の少年鋭菊(ミンチュイ)。歩いて三日もかかる距離を暗夜に出発するが、いつまでたっても辺りは暗いままで何も見えない。やたらぶち当たってくる車は実は亡霊。借りるはずの宿には断られてしまう。と思ったらある家に閉じ込められて寝台に縛られ、上からは刃物が吊るされている。実は鋭菊(ミンチュイ)の父もかつて猿山に登った人間だった。その他いろいろな出来事は合理性を持たずに結びつき、全ての出来事はまさに暗夜のごとく、はっきりとは見えないままに我々を襲うのである。

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