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漫画家まどの一哉ブログ

   
「ポンス・ピラト」ほか  R・カイヨワ
読書
「ポンス・ピラト」ほか R・カイヨワ 作
(景文館書店)


ローマ皇帝支配下ユダヤ人地区の総督ポンス・ピラトは、イエス・キリスト逮捕の報告を受けて悩む。はたして簡単に無実のイエスを処刑してしまっていいものだろうか。イエスが刑死されずに生き延びた場合、今日に続くキリスト教は生まれなかったかもしれない。歴史のもしを再現する小説。

ピラトは官吏としては平凡な男で、文人であり、優柔不断ではあるがまっとうな正義感を持っている。ただ、事なかれ主義者としても今回の件は判断がむずかしい。

ひとつはメネニウスの進言。囚人のうち一人が恩赦を受ける祭日にあたり、民衆はイエス以外のほうを選んだ。よってやむなくイエスを処刑するというもの。責任を免れるとともに、一般受刑者と同時に処刑を行いイエスの聖性を除去する。手を洗う儀式も行って穢れも除去。いかにも政治的な方法。

また預言者マルドゥクは未来を知っていてイエスの処刑を示唆する。処刑によりローマの権力を超えてはるかに強力な教えが誕生すること。これはやむをえない未来。十字軍の運命やそれを描いたドラクロアやボードレールの文章まで予言するからおもしろい。

そしてユダ。ピラトに言いよる裏切り者のユダは、じつはキリスト教の誕生を画策する男であって、イエスが十字架に架けられて殉教することによって初めて神の子・救い主となる。無実の罪で犠牲となることで、人間の贖いが成立する。ユダとピラトの汚名によって人間は救われると、ピラトに処刑を求める。このユダの真意には驚いた。他にもユダをこう描いた作品はあったかもしれないが自分にとっては新鮮だった。

訳文なのでほんとうのところはなんとも言えないが、文章のリズムが良くて思わず読み進んでしまう。カイヨワが小説を書く人とは知らなかった。表題作ほか短編。

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