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「破れた繭」耳の物語1  開高健
読書
「破れた繭」耳の物語1 開高健 作
(岩波文庫)

開高健の自伝小説前編。幼い頃から戦中・戦後の貧困生活、学生の身でありながら結婚するまでを語る。

私にとって開高健はあまり親しんでいる作家ではなく、「日本三文オペラ」のように面白いものもあるが途中で投げ出したものもある。描かれていることの多くがもっぱらの現実で、逃れられない現実がこれでもかと連続する印象だ。私のように自身と現実の間に多くの妄想が挟まっている人間にとってこれはつらい。たいていの青春体験小説を読んでも「ああそうなの」くらいの感想しか持てないのがふつうだ。ところがこの作品は何気なくふと読んでみた数行で脳内にじんわりと快感が走り、連続する言葉の魅力に掴まった。

基本的に開高はあらゆる現実に対応出来る気力・体力の持ち主で、困窮する中でも好奇心旺盛に学校の勉強もするし、さまざまなバイトも次々と経験する。へなちょこなところがない。妄想では生きていけない戦後の現実があるとはいえ、体験型のタフな作風というタイプを感じる。
とは言ってもこの自伝小説がほんとうに面白くなるのは、フランス語の私塾のようなところで谷沢永一と出会うころからであって、その後の谷沢主催の同人誌の集まりで向井敏や牧羊子が登場するといよいよ加速。牧羊子の計略?により妊娠・結婚へとなだれ込むあたりは爆笑級の面白さ。自分は大阪出身で土地勘もあるので楽しく読めた。そういえばサントリー文化というものがあったなと思い出したが、後編で触れられるかもしれない。

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