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漫画家まどの一哉ブログ

   
青林工藝舎から田中六大さんの新刊「クッキー缶の街めぐり」を、送ってもらった。多謝。
あらためて読むとさわやかにとぼけていて面白い。さわやかさんという名前のおじさんが登場するが、素敵にいいかげんな人間だ。なんだか若手漫画家にとって年長者の自分の頼りなさを見ているようで救われる。よく読んでみれば、登場する若者たちもかなりテキトーなヤツが多くて安心する。
これが田中六大のリアリズムで、メルヘン&ファンタジーの設定であるだけに、よけいに愉快です。自分のいちばん好きな作品は「さわやか魔法研究所」で、少女オルガは、かつてHIMEJOHNから発行された「魔法少女くるみちゃん」のごとくトボケた女の子であります。
ところで自分の好きなエリアーデというルーマニアの作家の作品には、よく戦争や空襲が登場して、いつの時代の空襲なのか調べもせずに読んでいたが、田中六大作品にも良く出てくる戦争や空襲の話題は、やはりヨーロッパの旧市街が戦禍を残しているという事実から発想しているのだろうか。そういった破滅や死が、このファンタジー作品集のなかに必ず顔を出しているのも、私の好むところです。
http://www.seirinkogeisha.com/

追記:トムズボックス「楽園へ行く」田中六大 この本も面白いよ。風味があって。

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つげ忠男「曼陀羅華奇譚」の後編が60ページの大作であった。体力の衰えなどまるで感じさせない筆力です。そうか、忠男さんは最初の構成をせずに、いきなり一コマ目から描き始めるのか。それで出来上がるのは、人物に語らせる事がいっぱいあるからかな?この作品は語らせる事が多いせいか、大きいコマが少ないな。
うらたさんの「ホットケーキ」が、かわいらしくて楽しかった。これなら他誌(一般商業誌)でも充分読者に喜んでもらえるはずだが、「幻燈」を読んでいる編集者なんていないからな。
同じように角南さんの「水辺の憂鬱」も、まったく前衛的でなく短編ドラマとして良く出来た素直に読めるもの。コマ数をたっぷり余裕を持って使っているので、すらすらと頭に入ってくる。この作品も内容的には他誌でも充分楽しんでもらえると思うが、表現の質が違うんだろうなあ。
その他はまったく「幻燈」ならではのもの。特におんち作品のぶっとび具合が気持ちいい。しかもちゃんと計算されている。山田さんは少女を描かないほうが、自分は好きだ。1コマ目のベッドに寝ている絵が、グッグッグッとくる。
菅野さんの作品で冒頭、腰を痛める漫画家の姿。座敷じゃだめだよ、イスにしなきゃ。

http://a.sanpal.co.jp/hokutoh/information/

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読書(mixi過去日記より)
「街と村」
伊藤整
 作

作者とおぼしき主人公が、出身地である街(小樽)と村へ帰り、宛もなく彷徨いながら数々の亡霊に翻弄される幻想小説。その亡霊とは宙を舞う小林多喜二、また自分が過去に弄んだ女たちであったりする。自分が裏切った恋人や友人達が次々と現れ、かつての行為を責められ続ける。

主人公の私はやがて村に入り、泥棒の汚名をきせられ、地獄へ堕ちて畜生と化し、その実、行路病者として葬られるという、全編自責で埋め尽くされた小説。だが、幻想小説として、なまのリアリズム以外の方法で描かれているため、息苦しさは感じられない。

自分がいかに不誠実で、利己的で、ひどい人間であるかを露悪的にまで描くのは、日本近代小説によくあるスタイル。ボクは伝統的な私小説も楽しんで読むが、そういった自責的な部分はほとんど気にしていない。自責も苦悩も不幸も、発表された時点で、自己愛と自慢であることに変わりはないから真に受けない。ボクの場合、私小説の面白さはそういった自責部分ではないことが多い。この作品は幻想性がふんだんに展開されていて、たのしいです。


百になるまで
にゃんこの声
聞きたぐねえ
ざっくらん
ざっくらん

これはねずみたちが、金銀宝石を川で洗っているシーンでの歌。
このあと主人公は猫のふりをして、この財宝を盗み出し逃走するも、角ごとでお地蔵さんに会う度に重さが増して、手放してしまいます。ふふふ。

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そろそろ次の短編の構想を練ろうとは計画するも、今日はまったく空想の羽が広がらなかった。得意先に行ったりして、終わりなき日常に追われていた。日常というものはさすがに変化に乏しいものだ。平凡な幸せがあるのは分かるが、その平凡な喜怒哀楽から一歩引いている自分がいる。人間はただの存在ではなく、自意識を持った存在だが、全宇宙から見れば、結局それがどうしたという気はする。

ところで漫画ネタの空想だが、昨日など久しぶりに子供の頃の自由な空想感覚を思い出した。これは楽しいもんだが、親に保護されている状態なので、確実に甘えが入っている。したがってこの感覚は楽しいようで、実は不毛なのである。
自分はオタクというものは、この子供時代の温室的空想の心地よさから痛手をあまり受けていない、挫折していない人達だと思っている。なんとも不思議なものだ。

つまり漫画の楽しさというものは、苦いけど旨いといったようなもので、甘さも楽しさだけど、そこは誰しも多少なり屈折しているものを味わいたいところじゃないか?と自身のポジションを確認。

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読書(mixi過去日記より)
「素戔嗚尊」(すさのおのみこと)
芥川龍之介
 作

ちくま文庫の芥川龍之介全集を、ゆっくり順番に読んでいて、第3巻を読み終わった。
もちろん再読もある。
「南京の基督」「きりしとほろ上人伝」など有名なキリシタンものが多いなか、やや中編の「素戔嗚尊」がおもしろかった。続編の「老いたる素戔嗚尊」のほうが有名かもしれないが、主人公が若い頃のはなしもなかなか。

高天原の国で並ぶものない強力を誇る素戔嗚尊。またその心根は純朴かつ一本気だが、かえって彼を慕う人は少なかった。思兼尊(おもいかねのみこと)の姪に心寄せる素戔嗚尊は、仲を取り持つ約束の男に騙され、暴力沙汰を起こしてしまう。その事件が国を二分する騒動に発展した結果、彼は国を追われ放浪の身となってしまった。
やがて森の中の洞窟に住む大気都姫(おおけつひめ)と出会い、その姉妹達とも暮らし始めたが、それは実は畜生道への堕落だった。悪夢的な精神性…。
挫折の果て、森を離れ、海や山を越えて悲しみの旅を続ける素戔嗚尊。ようやく出雲の国へと流れ着いた彼は、さびしい大岩の上に一人の少女を見つける。聞けば彼女、櫛名田姫(くしなだひめ)は、巫女の占いにより、八つの頭を持つ大蛇のいけにえとされる運命。それを聞いた素戔嗚尊は喜んで、大蛇に立ち向かうことを決意するのだった。


それも自身の性格の故なのだけれど、抗えない運命に弄ばれながら、放浪する素戔嗚尊の心象風景が胸を打つ。野性的で暴力的になったかと思えば、大自然の中で恬淡な境地を得たり。だが通底するのは孤独感と悲しみだった。
さて、素戔嗚尊と八岐大蛇の決戦はいかに。芥川は意外なところで物語を終わらせてしまいます。ええっ、ここで終わり?!でもそれが芥川。
それにしても、やっぱ基本だね!造形的な作風が自分にぴったり。オモロいなあ。

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読書(mixi過去日記より)
「馬」
小島信夫
 作

小島信夫は2~3冊持っているのだが、
新潮文庫で改版された「アメリカン・スクール」が出たので買ってみた。
8編の短編のうちには既読のものもあるが、やはりたのしい。

そのうちの一編「馬」を紹介。
主人公の知らないうちに、自宅庭で増築工事が始まった。すべて妻のへそくりと画策によるものらしい。その二階屋の二階に自分は住むことになっているのだが、なんと一階には馬が住むという。腹を立てた自分は大工の棟梁を殴りつけようとして、梯子から落ち病院へかつぎこまれた。病院の窓から自宅を見ると、妻は頭領とできているようだし、よく見ると頭領と思った人影は自分のようでもある。どうやらここは脳病院のようで、やがて精悍な馬がやってきて、妻は日ごとに馬べったりの暮らしをおくり、自分はなんとか馬を征服しようと試みるのだが…。

つげ義春の夢漫画を読んでいるようなシュールな感覚。日本幻想文学中、十指にあげるかもしれないくらい気に入りました。
その他「鬼」「小銃」「星」など、主人公の私はつねに世界との関係で、ほんろうされるばかりだ。
例によって解説は保坂和志。

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映画(mixi過去日記より)
「トランスポーター2」
監督 ルイ・レテリエ
製作 リュック・ベッソン
出演 ジェーソン・ステーサム

2005年

以前、前作「トランスポータ-」をチラ観して、面白かったので観てみた。

政治家の息子が誘拐されるが、犯行組織の目的は身代金ではなく、少年を介して政府に病原菌をばらまくことだった。主人公は本来「運び屋」だが、今回は少年救出&悪者退治に奮闘する。と、話の骨格は簡単。加えて、少年の母親の愛と、家族を放っておいた政治家の父、その確執も盛り込んで、ヒューマンドラマ仕立てもトッピング済みです。

登場人物が典型的すぎてアホみたいだが、これは描きたいのがアクションで、それ以外の設定を単純にしておかないと、アクションがぼやけるから。そしてそのアクションを痛快にするためには、敵役がいかにも悪者だと一目で分かるヤツでないとだめだ。漫画のようにデフォルメされた、非日常の世界からやってきたヤツ。
その意味で、この作品では、常時下着姿の殺人狂のネエチャン(ケイト・ノタ)が、イカレていて、魅力たっぷりだった。あんな細腕で重いマシンガン2丁連射できるわけないやん!いやいやいいんです。CG技術の発達のせいで、アクションシーンもだんだん過剰になり、全編「そんなこと出来るわけないやろ!」というツッコミどころ満載で構成されるようになったのです。その分、画面から来る情報量が多すぎて、肩の凝らないモノを観ようと思ったのに、脳が疲れた。

古くさいけどCG止めて、人間の脳が自然と認識できる範囲の画像に限定して、実力カンフーとカースタントで一発撮りしたほうが、かえってリアルに感じて良いのではないか?ストーリーも、もう少し屈折した設定でお願いしますよ。

よーし俺もカーアクション描くぞ!ただし牛車だ!

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特集は幻堂出版、自分は大阪生活が長いわりに、漫画活動を休止していたので、幻堂とは無縁であった。

安部慎一 作・斎藤種魚 画「月と鉄柵」を読むと、あらためてアベシンの世界にしみじみとなる。アベシンは短編は風味であるとかつて言っていたが、それが出来るのはすごいことだ。実際風味では済まない濃い内容なのに。斎藤種魚のやわらかいユーモアのある線で描かれているのがいい味。

甲野酉「未踏」は3回目。まさに絵が定着した。描き込みすぎず、省略をして、情感を出す。とても読みやすくて不足を感じない。上手い。

オカダシゲヒロ「自分崩壊」この初期作品のあと、現在のギャグのほうに進んで良かった。いや、これもギャグなのかな?

黒川じょん「逃げる男」骨格は見えていても、見せながら読ませる手もある。これはうまくいった。

鳥子悟「サマー・サスピション」落語を聞いているような話術。鳥子さんはアイデア自体もさることながら、こういう能力が高い。

三本さんの「夜のホッケー」いよいよ最終決戦。
キクチさんの「新しい調和」まさにタイトルどおり。

話7割、絵3割の悲しい結果で描き飛ばしている「西遊」ですが、だんだんと核心に近づいていくと、思います。でも近づくのは次号からです。

タコシェ、模索舍、
もしくは直販
nisinosorao@yahoo.co.jp

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最近どうも午前中気持ちが塞ぎがちだと思ったら、寝ている間に感情の処理ができてないせいだ。という説もあるようだ。つまりどういうことか、よく分からないが、我が脳においては、楽しい夢でも見てうまく処理してほしいものです。
自分は感情的な人格ではないが、感情はいくら理屈で納得させても押さえ込めないことくらい分かる。感情は解放してやらねば解決しない。

これが50代の人間の危機だと思う。今NHKではミドルエイジ・クライシスと題して30代の危機を特集番組としてやっているが、もう今やどの世代も危機だ。30代が就職できない危機ならば、50代は失職の危機、そしてローン破綻、別居、離婚、うつ(躁鬱)、癌、介護、これら難題のいくつかを抱えて、まさに私も彷徨っているところ、はたして幸せな感情を抱いて毎日をおくれるか、リハーサルなしの毎日です。
で、これらは社会のせいでもあり、自分のせいでもあるわけですね。

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「アックス77」の「信じられた遊び」は、前号に続いて宗教団体が舞台ですが、「QJ」に描いていたころからよく使う設定だ。もし自分が宗教について深く考えていれば、もっと掘り下げた世界を展開するところだが、自分の人生の上で宗教には何の興味も無い。社会現象としてみているだけ。
そういう外から眺めている範囲での、実社会のリアリズムはぜひ描きたいところです。そういう点でこの作品は、いつもの奇想シュール系ではないですが、自分では気に入っております。

ところで自分は青春や人生といったテーマで語るタイプではないが、大きなものでも小さなものでも、社会共同体といったものには興味がある。サークル的小集団から果ては国家までである。しかもその社会共同体はしばしばある種の錯覚によってまとまっているところがおもしろい。
例えば日本民族は優秀な美しい民族であるとか、虐げられた労働者が団結すれば善を為す。などである。
これらの理念型錯覚は言い方をかえれば、お人好しというところが愉快だ。つまり人間性に対する一面的信頼と権力というものに対するぼんやりした甘い期待である。

人間とは欲望に忠実な存在で、どうせろくなことはしない。そしてあらゆる国家は少数の凡人による、多数の凡人への支配で出来上がっているので、たいして違っちゃいない。というのが自分の基本的な認識です。悪への理念というものはめったになく、世の社会的理念はしばしば正義を旨としておりますが、ここに小さな大失敗の原因があり、ああ漫画になるなと思うのであります。

しかしふだん描いているものは、ぜんぜん違うのです。

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