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漫画家まどの一哉ブログ

   
「ひかげの花」(mixiに同じ)
読書
「ひかげの花」
永井荷風


学生の頃から、ヒモひとすじの男。女の歓心を得るためにはどんな屈辱をも、耐え忍ぶことができる男重吉。そしてその連れ合いの女お千代は、あまり物事を考えず、規律正しく扱われることがしんぼうしきれない性格で、いわゆる醜業につくことについても流れのままに身を任せてしまい、それほどの抵抗は感じていない。
重吉のほうも自分の女が、身体を売って稼いでいるのに嫉妬心などまるで抱かず、女房の仕事をかげひなたに援助して活躍するありさま。
いや、ひなたならぬひかげなのだが、社会の片隅でけなげに生きる市井の人々を描くといっても、これは清貧でなくとんだ二人組だ。しかしこれも人間であって、その喜怒哀楽・心のひだを描いて読んでいて思わず気持ちが入った。売春婦とそのヒモたる男の日常を描いた作品は、現代でもいくらでもあるかもしれないが、この昔の小説はまったく陰惨なところがなく、がんばって生き抜こうとする二人を応援したくなる。作者の登場人物への愛が感じられたが、ここに永井荷風の人間観があるのではないか。次の一文など。

主人公お千代の娘、おたみが母親と同じ仕事に就いていることについて…
(略)塚山はその性情と、またその哲学観とから、人生に対して極端な絶望を感じているので、おたみが正しい職業について、あるいは貧苦に陥り、あるいはまた成功して虚栄の念にあくせくするよりも、どぶがわを流れる芥のような、無知放埒な生活を送っている方が、かえってその人には幸福であるのかも知れない。(略)と考えていたのである。

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