漫画家まどの一哉ブログ
説教節「俊徳丸・小栗判官」
説教節「俊徳丸・小栗判官」
兵藤裕己 編注
(岩波文庫)
中世後期から江戸初期に流行った大道芸「説教節」の中から、語り継がれ今に残る名作5編を収録。
往来で演じられた大衆演芸だけにさすがにドラマティックで悲劇的。その演出もエンターテイメントの法則をはずさず、過酷な運命を生きる主人公達に感情移入して手に汗握る出来栄えとなっている。
「俊徳丸」:近鉄大阪線に俊徳道という駅があるが、この駅名は盲いた俊徳丸が八尾高安から、父親に捨てられたとも知らず天王寺へと歩いた道が由縁らしい。継母の呪いによって絶望的な人生を歩む俊徳丸。これを一人助ける乙姫の勇気が健気だ。「良きときは添はうず、悪しきときは添ふまいの契約は申さず。悪しきとき添うてこそ、夫婦とは申そうに」たった1枚のラブレターで俊徳丸に命をかける乙姫。5編中いちばんの面白さ。
「小栗判官」:毘沙門天の申し子小栗判官は、一般人をはるかに卓越したスーパーな男だが、どうも人格的には感心できない。女に関しては趣味がうるさく、挙句は大蛇の化身と契る始末。しかも物語途中で毒殺されてしまう。話を引っ張るのは妻となった照手姫で、人商人に身を売られても遊女となることを頑なに拒み、過酷な下働きに耐えながら小栗との再会を祈る。閻魔大王登場。
「山椒大夫」:これも鴎外作や東映アニメで体験した有名な話、安寿と厨子王丸である。母や乳母と4人で出かけた途中、人買いに騙されて別々の船で離されていくシーンは悲しく劇的。スーパーな人間は出てこないが、悪人に搾取される中でも幾人かの善人に助けられ、やがて母との再会を果たす。山椒大夫はそれほど個性的でもないふつうの悪人ボスといったところだった。
PR