漫画家まどの一哉ブログ
「裏面」ある幻想的な物語 クビーン
読書
「裏面」ある幻想的な物語
アルフレート・クビーン 作
「裏面」ある幻想的な物語
アルフレート・クビーン 作
まさに悪夢的な幻想小説。そう謳われるものはいくつか過去に読んだこともあるはずだが、ここまで悪夢的なものはなかった。
大富豪となった学生時代の友人に招かれて、彼が作った夢の国へ移住する主人公夫婦。旅の途中までは平穏だが、夢の国の大きな外壁を越えるところから、もう戻れないのではないかと、不穏な空気が高まっていく。それでも古き良き文化を守っていくことを旨として作られた夢の国なので、最初はなんとか慣れていける範囲の生活がつづく。
主人公が酪農場で道に迷っていたとき、餓死寸前の痩せこけた白い馬が駆け抜けて行くあたりから、不気味なイメージが次々と広がって目が離せない。手持ちの全財産はなぜか紛失してしまうし、彼の妻は精神的な不安から病死へと一直線。この国の創造者であり支配者である元友人にようやく出会ってみると、それは不遜な権力者ではなく、魔力に支配された意識も虚ろな眠れる狂王であり、まともに相手は出来ない。
後半は夢の国の全てが朽ちて崩壊していく暗黒のシュールレアリスム。まさにボスの絵画を見ているような世界。最後の方はスケールがでかすぎて、やりたい放題である。あまり作者のみが勝手に幻想世界に突き進んでも読者としてはついて行きにくいものだが、この作品の場合、例えばルーセルのそれに比べれば、街が破滅していくというストーリー上の方向性を持っているので読みやすかった。暗黒暗黒。
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