漫画家まどの一哉ブログ
読書
「人工楽園」 ボードレール 著
詩人の書く論考は芸術的過ぎてなんだかチンプンカンプンのことがあるが、これは論理的でわかりやすいほうだ。ボードレールが明晰で意志的な人であることがわかる。
酒、アシーシュ、阿片についての考察だが、愛されるべき酒についての言及はわずかばかりで、問題とされるのはアシーシュと阿片である。
前半で紹介されるアシーシュとはハッシシで、自分も詳しい知識はないが大麻樹脂のことであり、この時代にはジャム状のものをスプーン一杯分飲み込む方法で摂取する。マリファナ(乾燥大麻)は登場しない。
その効果について何人かの体験談を取り上げるが、人によって違った面があり、基本的にはダウナーなのだろうが専らそういうわけでもなく、けっこうハイテンションな状態も現れるようだ。とはいっても活動的というのではなく、ただ野放図に感激しやすくなってしまうみたいだ。共通するのは至福を味わったあとの気怠さで、もうなにひとつ行動する気にならない意志のなくなった状態になる。
ボードレールがアシーシュを否定するのは、その意志喪失効果のゆえである。かのバルザックも意志の譲渡ほど屈辱的なことはないとアシーシュに手をださなっかたようだが、反道徳の貌を持つ詩人ボードレールにしても意志を失って創作しているわけではないのである。芸術は強固な論理性とそれをコントロールする意志力あってこその営みで、けっして薬物による幻惑状態でなせるようなものではないのだ。
後半はボードレールの尊敬する著述家ド・クィンシーによる名作「阿片服用者の告白」より主要部分を抜粋しながらその恐ろしさを解説してゆく。当時阿片は薬店で普通に買えた。ド・クィンシーは歯痛対策として使ったのをきっかけに長い戦いの人生に足を踏み入れるわけである。ボードレールはこの著作の文学的完成度に惚れ込んでいるので、阿片の危険性を説きつつも、ド・クィンシーの文章の美しさを紹介する論述となっている。
全体としては麻薬の危険性を告知するものでありながら、さすがに美文満載の読み物となっております。