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漫画家まどの一哉ブログ

   
「肉体の悪魔」
読書
「肉体の悪魔」
レイモン・ラディゲ
 作

三島由紀夫が憧れたこの夭折の天才作家の名作を、なんで今まで読んでいなかったかと言えば、一つには恋愛というテーマが苦手。もう一つには青春という設定についていけない。もう一つはもし耽美文学だったら好き嫌いがある。というものだった。
しかしまったく違っていた。たしかに主人公達は恋愛しているのだが、縷々語られるのは男である「僕」のエゴイスティックな内面であり、それが冷徹に突き放した目線で描写されていて、悩んでいてもけっして懊悩や混乱を描くわけではなく、あくまで実験動物のように分析されいく。恋のかけひきは、まるで戦地に置ける作戦遂行の如くである。こういう推理小説のような味わいが優れた心理小説のおもしろさで、泣いたり叫んだりされるとこの味わいは出ない。

心理小説としての面白さもそうだが、物語の設定が不倫なので、主人公の二人が他人目を盗んで逢瀬を実行するストーリー上のスリル感も味わえる。そもそも相手の彼女は若くして結婚したのち、すぐさま主人公の「僕」と本当の恋に落ち妊娠までしてしまうが、結婚前に「僕」が態度をはっきりさせていればこんなややこしいことにはならなかった。という設定はまったく三島由紀夫の「豊饒の海(第一話:春の雪)」で主人公が彼女に犯した行為と同じである。三島は基本にラディゲを置いて組み立てていったものと思ったが、そのへんは語り尽くされているに違いない。

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