漫画家まどの一哉ブログ
「秋風秋雨人を愁殺す」 武田泰淳
読書
「秋風秋雨人を愁殺す」 武田泰淳 著
「秋風秋雨人を愁殺す」 武田泰淳 著
近代中国成立以前の革命期に鮮烈に生きて死んだ女性革命家秋瑾(しゅうきん)の評伝。
孫文の成し遂げた革命以前に多くの若者が運動に身を捧げて犠牲となっている。秋瑾もその一人。
極めて激しい性格で、運動のリーダーでありながら息の長い綿密な計画を実行するより、今すぐの直接行動を訴える人で、にっくき満人政権に対して命がけで切り込もうとしない男共は、みな卑怯者の意気地なしと罵られる。壇上に日本刀を突き刺しての演説など、迫力満点である。とてもじゃないが軟弱な男はついていけない。武田泰淳は「豪傑わらいくらいイヤなものはないな。しかも、それをうちの女房がな。ーー」とダンナをして言わしめているのが愉快。
後半は秋瑾と同じ直接行動派でありながら、身分を偽って満州政権陸軍学校の要職につき、ついにテロリズムを実行して倒れた徐錫麟の足跡を追う。
武田泰淳の筆致はけして一様な歴史叙述だけではなく、テレビ番組「逃亡者」を例にとったり、マンガ風の会話形式も使ったりと、身軽で肩肘張らず面白い。魯迅や秋瑾の故郷紹興の取材も織り交ぜながら、その後自身がおしゃれなテレビ番組に出演したときの落胆にも触れる。この身軽さが魅力だ。やはり手練の文章を追う心地よさ・小気味よさというものがないと読書体験も寂しいものになる。
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