漫画家まどの一哉ブログ
「盲目の梟」 サーデク・ヘダヤート
「盲目の梟」
サーデク・ヘダヤート 作
(白水Uブックス・中村公則 訳)
テヘラン生まれの作家による西欧文学とイランの神秘主義が融合した類まれなるシュルレアリスムの傑作「盲目の梟」。他、短編と紀行文「エスファハーンは世界の半分」を収録。
表題作「盲目の梟」。ブルトンが絶賛したのも頷ける。主人公男性(語り手)の脳内を行き来する絶望的なイメージと、身の回りの現実世界との隔たりがあいまいで、リアリズムはほとんどない。夢幻的で酔うような世界を描く作家は多くいるだろうが、救いようがないことにおいてはいちばんの書き手ではないだろうか。
殺してしまった謎の黒衣の女の死体を捨てにいく前半。淫売女でしかない妻との相剋に苦しむ後半。どちらも女性に対するどうにもならないコンプレックスが基本になっている。ここにアヘン等の薬物効果を加え、ぐるぐると同じところを巡ってどこへも辿り着かない人生が完成する。実際に同じような幾何学的な家並みの街を何度も通る。
しかし語り口は感情を抑制した頭の冴えた夢遊病者のようなもの。若くして自死に至った作者が人生の初めから抱えていた、厭世と絶望と死への想いがあったようだ。かくて絶対他者では真似できないシュルレアリスム文学の逸品が世に生まれた。作家それぞれその人なりのシュルレアリスムがある。
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