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漫画家まどの一哉ブログ

   
「獄中記」 ワイルド
読書
「獄中記」 ワイルド 作


言わずと知れたオスカー・ワイルド。
獄中記に期待するものと言えば、やはりこまごました獄中の日常か、もしくは自分もここまで堕ちたんだ、もうこうなったら覚悟を決めたぞ!みたいな極端な決意表明だが、ワイルドは後者だ。もっともさすがに大いに己が罪を悔い(別に同性愛性癖が悪いとは思わないが)世間に頭を下げることは徹底している。「自分の天才を信じきって青春を浪費してしまい、快楽から快楽へとはまり込んだ」とひたすら反省しているが、そこが魅力だったのにと思う人も多いかも知れない。


出獄後は芸術家としてストイックに生きるようなことを宣言して、ではなにが本当の芸術家か縷々解説する。彼の至った結論とは人間の悲哀こそが最高の情緒であり、芸術家は悲哀を知りほんとうの愛を知らなければならないということらしい。獄に繋がれる身となった自分の悲哀から発展して、ようやく貧窮や困難の救済としての人間愛に目覚めたのだ。エリート街道まっしぐらの身の上ゆえか、囚人となって初めてそこにたどり着いたのだろうか。「貧しき者は賢く、われわれよりも慈悲深く、親切で、しかも感受性が豊かである」とベタ褒めだが、これも出身階級ならではの勘違いだろう。


さらにその意味で芸術家をはるかに越えて優れた人物こそキリストであり、他者の悲哀に全身を投げ打って同情をよせることができるキリストの大いなる愛こそが至高のものであることが延々説かれる。巻頭で宗教を信じないと言っていることと矛盾するようだが、ここでは教会全体ではなくキリスト個人の人格を取り上げているので、問題はないようだ。


出獄後は寒村でひっそり暮らし、晩年は忘れられて困窮の中一人寂しく死んだそうだ。切ないねえ。

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