漫画家まどの一哉ブログ
「無銭優雅」
読書
「無銭優雅」 山田詠美 作
恋愛小説という分野が苦手でふだんとんと手を出さないワタクシであるが、これは面白かった。主人公の二人は45歳同士で大人の恋愛なのだが、大人の恋愛ときいて思い浮かべる格好の良さとはかけ離れた、子供のように愉快なふたりなのである。全編に渡って語り手である主人公の彼女が、いかに相手の男が自分にとって理想の男であるか、その楽しさを語りまくる。ただそれだけで小説一本が仕上がっていて、最後に少しばかりの波乱があるものの劇的なストーリーはなく、彼女ののろけ話を聞かされているのが実に愉しい。 彼氏の方は乗り物が苦手で行動範囲も狭い、なんとなく頼りなげな予備校講師なのだが、彼女の言わんとするところををまさにピンポイントで受け止める希有の存在。やっと見つけた理想の男性。自分を全部わかって受け止めてくれる男と過ごせる、これぞ恋愛の極みといった話。
舞台である彼氏の住む古い日本家屋と雑草生い茂る中庭。そこで出される旨そうな料理のあれこれ。それらもこの小説を盛り上げる愉しい道具立てだ。また彼女の家は二世帯住宅で兄家族と両親もいっしょに住んでいる大家族で、そのメンバーたちのそれぞれ違った性格ゆえの事件。こんなところも話を膨らませてくれる。それに彼女は花屋で働いていて、花屋でのエピソードもちらほら。また作中世界の名作文学から、これぞというべき恋愛名文句が引用されていて、それが区切りとなっている仕掛けも効果的だ。
とにかく二人が幸せで過ごしているから、読む方としてはこのまま幸せが続いてくれるのか不安になってしまうくらいだが、そんな泣かせるような展開もなくてよかったよかった。やっぱ恋愛小説に安っぽいドラマは要らないよねえ。
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