漫画家まどの一哉ブログ
「死神とのインタビュー」 ノサック
読書
「死神とのインタビュー」ノサック 作
「死神とのインタビュー」ノサック 作
戦後ドイツ文学。平易で読みやすいが幼稚でも通俗的でもない、美文ではないが文章を追う快感がある。訳文なので断定できないが名文なのかもしれない。
死神が普通の職業人のように暮らしていたり、作者が自分でこしらえた登場人物に迫害を受けたり、虚実ないまぜとなった幻想味があっておもしろい。
「ドロテーア」:手持ちの時計を高く買い取ってもらうつもりで出向いた家。あいにく主人は留守だったが留守番していた女性はかつて自分が衝撃を受けた絵に描かれていた女性である。ところが彼女は絵のモデルになったことはなく、逆にあなたは戦争中に助けてくれた若い兵士の兄なのではないかと問いただす。自分にそんな弟などいない。それでもなぜかいくつかの符号が一致しているという理由のない不思議さ。種明かしはない。
「滅亡」:敗北に向かって突き進むドイツ。ハンブルグ空襲で焼け出された体験をつづったドキュメンタリー小説。空襲当日ちょうど郊外の一軒家を別に借りて田舎生活を始めていた作者夫婦。トラックに便乗して廃墟となったハンブルグへ帰ってきた瞬間、なぜか「さあやっと本当の生が始まるぞ」といった高揚感に襲われる。彼の妻も逃すことのできない最後の大きなチャンスがおとずれている気がするという。この現実と矛盾する感情はまったく個人的なものなのか。人間は謎だ。
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