漫画家まどの一哉ブログ
「東京震災記」田山花袋
読書
「東京震災記」 田山花袋 著
明治期自然主義小説の代表選手、田山花袋による関東大震災ルポルタージュ。
ストーリー仕立てではないため盛り上がりというものはないが、都内各所の壊滅的な状況や、残された人々の戸惑う様子がくりかえしくりかえし描きだされる。言うまでもなくこの震災の悲惨なところは大規模火災にあって、いたるところ周り全体が火炎であり、熱風と煙の中で逃げ場は川にしかなく、結局そこでも多くの人が亡くなっているその様子が語られている。
また花袋は、東京のそこかしこにそれまでかろうじて残っていた愛すべき古き江戸の風情が、とうとうこの震災で灰燼に帰してしまったことを大いに嘆いている。しかし今後ほんとうの意味で東京が大都会へと生まれ変わるきっかけでもあることを期待してもいる。なにせ一面焼け野原でなにも残っていないのだから。
それにしてもさすがに花袋の文章が美しく、こんな文学的な表現で語られると、廃墟と化した東京でも実に魅力的に思えてしまう。震災のルポ自体より、自然や情景の描写に心うたれた。
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