漫画家まどの一哉ブログ
「幽霊たち」
読書
「幽霊たち」 ポール・オースター 作
主人公ブルーがホワイトから任された仕事はブラックという男を見張って報告するというものだった。以来ブルーはブラックの住む部屋が見える隣のマンションの一室に陣取り、ひたすらブラックの行動を監視する日々が始まった。ところがブラックは毎日ただただ机に向かって書き物をするのがもっぱらで、ほかにこれといった行動をしないのだ。なんとも退屈な尾行作業が続く。 業を煮やしたブルーはいろいろと変装を試みてブラックと会話。するとブラックは自分の仕事はある男を終日見張ることだというのだ。やがてとうとうブラックの部屋に忍び込んだブルー。そこで彼が見たブラックの原稿は、ブルーの書いた報告書だった。ついにブルーはブラックと直接対峙するが …。
ブルーもホワイトもブラックも、ほんとうは何者なのか得体の知れない人間たちによって、輪郭の茫漠とした物語が語られる。徒労とも思える監視作業ははなはだ不条理なので、逆に興味をそそられる具合だ。もちろん最終的に謎解きがあるようなたぐいの小説ではないことは読んでいて解るので、おそらく種明かしはないだろうと思っていると、最後に銃や殴打などアクションも出てくるにせよ果たして謎のままだった。なんと不思議な話だろう。ただブルーの困惑と懊悩が他人事ではないので読んでしまう。純粋なエンターテイメントだと全部他人事なのでこうはいかない。
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