漫画家まどの一哉ブログ
「ヤング・アダム」
読書
「ヤング・アダム」 アレグザンダー・トロッキ 作
イギリスにも水上生活はある。スコットランド地方グラスゴーの運河を無煙炭などを積んで行き来する舟の暮らし。レスリー一家の船(家)でジョーも働いていた。ある日半裸の女の水死体を引き上げたところから話は始まる。とは言ってもそのあとは主人公のジョーが、だんだんとレスリーの妻エラに思いを寄せ、遂には肉体関係を繰り返すに至るまでの心理が克明に描かれるだけだ。身体だけが興味の対象なのだ。その行為までの過程は読んでいても特別の興奮をそそられるわけではない。
ところが実は引き上げた水死体はジョーの元カノのキャシーで、前夜会った時の思わぬ事故により彼女は川に落ちたのだった。ジョーはとりあえず自分が疑われるような証拠は消しているが、内心落ちつきはしない。そこへ見知らぬ男が犯人として捕まってしまった。どうやら死んだ彼女の直前の恋人らしい。しかも裁判は無実の被告に状況悪く進んで行き、このままでは死刑が適用されてしまう。
その後ジョーは船を降りて陸上のアパートに間借りしているが、裁判の行方が気が気で無い。かといって当然自分が名乗り出るわけではない。密会を重ねたレスリーの妻エラのことも、その後は関心が薄れてしまって、興味はエラの妹グウェンドリンに向けられたようだ。すべてに中途半端ではっきりしないまま、女に対する純粋な欲求のみがつのる。
話の半分以上は女の身体に対する関心で、エラやキャシーとの関係を綴りながら、さりとてエロティックでもなく、ジョーの茫漠としたつかみ所の無いおそらくリアルな心理が描かれているところが読みどころだ。この漠然とした感じがいいと言えばいい。
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