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漫画家まどの一哉ブログ

   
「風媒花」

読書

「風媒花」 武田泰淳 作

 

産声を上げたばかりの社会主義中国。戦後占領期の日本で中国文化研究会の面々を中心に描かれる群像劇。今となっては当時の政治的運動や研究者の苦悩など思い図るすべもないが、小説作品にそういったインテリ層のサークル活動が描かれるのはよくあることで自然ではある。

 

この作品の場合支配者として大陸に君臨した立場から一転敗者として引き上げる身となり、日本帰国後は社会主義中国に理想を追い求める当時の親中インテリ層の複雑な心情を理解することも出来よう。ただしそれをもって作品の第一義的意義とされるのでは作品はだいなしだ。もはや作中人物たちと想いを共有することは不可能な現在、それらのくだりはたいして面白くなく、作品の魅力はもっぱら登場する女性たちの政治性などに無縁な自由さにある。奥さんの武田百合子がモデルとして面白い人なので、パチンコや万引きのシーンなどが抜群に面白い。武田泰淳はとうぜんインテリだが、人間のたわいもない日常を描いたときがてんでインテリ臭くなく、リアルな会話が絶妙であってそれが楽しくて読んでしまう。

 

戦後文学を読んで政治思想史を研究するのもアリだとは思うが、それは19世紀フランス文学を読むとき王党派か自由派かどっちでもいいのと同じで、作中人物がいきいきと動いていればそれでよい。自分は作品を大きな枠組みでは読まずに、仕上がりの細かな技術を味わう趣味なので、視野狭く楽しんでゆきたい。

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