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漫画家まどの一哉ブログ

   
「自由の彼方で」
読書
「自由の彼方で」
椎名麟三
 作

現在でも格差社会で底辺の生活は厳しいものがあろうが、この自伝的小説に書かれた戦時中の作者の境遇たるや、あまりに悲惨で驚いた。いや金銭的には食えている時期もあるのだが、なにせ人格が浮世離れしているからなあ。

主人公が未成年の頃、コックの見習いとして厨房に入っているところから話は始まる。ここに登場するのが人品卑しい若者たちばかりで、水商売の世界で生き抜いていくあれこれが面白く、主人公にも哲学的・観念的な思索は一切無い。ときどき夜空の星を見上げては、自然と涙をながすばかりだ。
そのリアルな世界にひきこまれて読み進んでいくと、主人公はいつのまにやら神戸ー姫路間の鉄道で車掌をやっているのだ。これがなかなかに過重労働で、やがて自らの意志で共産党員になってしまう。戦前だからもちろん非合法。秘密裏に連絡を取りながら、職場でビラを配ったりして労働運動を画策する。

しかしコックをやっても車掌をやっても共産党員をやっても、どこかなぜやっているのかわからない、自分がまるで幽霊としてこの世に生きているような感覚。死に操られて生きている男。主人公は精神性が過剰なあまり、現実に対して本気になれないのではないだろうか?精神デッカチの畸形ではないのか?
このあたり自分の共感するところで、自分もひととおり学校も出て会社勤めもしたが、未だにどこか密着した感じになれず、社会人としてはどこか宙に浮いたような気持ちで過ごしているのだ。

ついに警察にとらえらえた主人公。彼は留置場でシラミと格闘する無為な毎日を送り、ついに非人間的な一個の抽象物へ成り果ててしまった。することといえば、ダイヤモンドの製造法を考案して金持ちになるなど、非現実的な妄想をふくらませるばかりである。
このあたりの現実離れ感もまったく若いころの自分と共通するものがある。

やがて出獄した主人公は、土間に畳を二枚敷いただけの物置のような部屋を借り、マッチ工場で三人分の雑役を一人でやらされて、疲労困憊しながらも自身の境遇に付いて考え直す気力も無く、ぼろぞうきんのように働く。それでも蚊を叩き潰したときなど、ふと最低限の意志に気がつくこともあり、そんな時久しぶりに彼は人間へと帰ってくるのである。そしてそんな彼でも物語の最後には、まるで輝かしい未来があるかのごとく夢中になって東京へ向かうのであった。

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