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漫画家まどの一哉ブログ

   
「斜陽」
読書
「斜陽」
太宰治
 作

学生の頃一度読んだきりだが、大人に成ってから読んだ方が良い。没落ということがよくわかる。没落貴族と言えば三島由紀夫の小説によくでてくるが、なかなか楽しい設定である。金もないのに上品であるところが自分の趣味に合うのかもしれない。

太宰自身は裕福な階層の出身で、けっきょく坊ちゃんで労働者にもなれないし、金持ちたちと付き合うことも出来ないという居場所のない人生だったようだが、作品の中に登場する小説家に「駄目です。何を書いても、ばかばかしくって、そうして、ただもう、悲しくって仕様が無いんだ。いのちの黄昏。芸術の黄昏。人類の黄昏。それも、キザだね」と言わせている。これが太宰の立場だろうか?この悲しみってなんだろう?太宰ファンなら肌で感じているものだろうか。

この悲しみが作品全体を流れる基調で、それはたぶん悲しみという言葉で表現するのがいちばん適っているものなのだ。人生全般を表現するのに悲しみという言葉を使うのが、太宰ならではのあり方でそうやって死んでしまったようだ。たしかにこの作品を読み進むにつれ、心の底に動かしがたく感じる感情。それは朽ちてゆくものとしての暮らしが、没落貴族のみならずわれわれ平凡な人間の生き死にもしょせん朽ちてゆくものであり、はかなく果てるものであり、そのなかで日々を繋いでいることを思わざるを得ない感情だ。

この小説では母が死に弟が死んでゆくなかで、ひとり主人公の姉だけが、意図して愛人の子を姙むという荒技に成功する。滅びゆくもののなかで、この特異な展開がまさに没落の中の斜陽だった。
「この世の中に、戦争だの平和だの貿易だの組合だの政治だのがあるのは、なんのためだか、このごろ私にもわかって来ました。あなたは、ご存じないでしょう。だから、いつまでも不幸なのですわ。それはね、教えてあげますわ。女がよい子を生むためです」

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