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「明治深刻悲惨小説集」

「明治深刻悲惨小説集」
斎藤秀明 選
(講談社文芸文庫)

1890年代流動する社会の中で、虐げられ捨てられてゆく人々の末路を描いた一連の「深刻小説」。自然主義以前の豊かな娯楽性と共に作家のゆるぎない批判精神を見ることができる。

10編の短編のうち多くは、素直で美しく若き女性がその不幸な境遇のため悲惨な最期を遂げるというもので、必ずアンハッピーエンドだとわかっているだけ読むのも辛いものがある。例えば田山花袋「断流」では生きるために奴隷的労働のあげく身を売らざるを得ない主人公に対して、善意溢れる寺の和尚も「世の中の罪だ」と繰り返すのみ。

また徳田秋声「薮こうじ」、小栗風葉「寝白粉」などは新平民である主人公たちへの言われなき差別をとりあげ、作者の世間への憤りをあらわにする。そんな中で自分が最も面白いと思ったのは広津柳浪「亀さん」で、知的障害者である青年と、彼を利用しようとする蟒蛇(うわばみ)と呼ばれる娼婦あがりの悪女という珍しい設定。どちらもあわれなものである。

ところで8編は文語体だが、読み物としてのリズムがあって読む楽しさに溢れている。中でも小栗風葉は音楽のように心地よく、やはり音読を聞きたい代物だ。また川上眉山、泉鏡花などにある江戸言葉(べらんめい)の口調がなんとも歯切れ良くて気持ちが良い。
江見水蔭「女房殺し」は口語体だが派手さのある特異な文章。樋口一葉「にごりえ」は人情味溢れるさすがのドラマ作り。

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