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漫画家まどの一哉ブログ

   
「坑夫」

読書

「坑夫」 夏目漱石 作

鏡花や鴎外に親しんだ自分も、なんとなく漱石だけは手が出せずにいたが直感で選んで、たいへん面白かった。

主人公は裕福な家庭で育った青年ながら、ある日なにがあったか出奔し、二度と家には戻らない覚悟で歩いているところへ銅山へ誘われる。それから周旋屋の男に連れられて遥か山中へと向かうのだが、主要駅を出てからだんだんと人里を離れ、青く暗い山へ向かって寂しい山道を行くところなどまことに不安な道程だ。さすがに銅山は山奥である。

また初めて潜る地底の様が考えられないくらい恐ろしい労働環境であって、なにしろ狭い狭い穴の中をカンテラ一つ下げて、何段も何段もハシゴを降り、どこをどう通ったか分からなくなるその果てで孤独な掘削作業が行われている。ちょっと信じられない。とにかくこの街中で誘われてから地中のどんづまりまで行く過程が、珍しいこともあって興奮してしまった。もちろん飯場の様子も描かれるが。

 

漱石はこんな労働事情を体験者から又聞きして、ルポの如きタッチで小説にしあげているが、当然社会派小説ではなく心理小説であって、主人公の心理に多くの行数が割かれている。たとえば蠅のたかるまんじゅうに手を出す心理もあれば、地中で疲れてふと死を思う心理もある。それが分析的で乾いた感触があり、けっして主情的でないところが気持ちよかった。漱石の他の作品もこうなのだろうか。それならけっこう自分は気に入るかもしれない。

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