漫画家まどの一哉ブログ
「ペンギンの島」 アナトール・フランス
「ペンギンの島」
アナトール・フランス 作
(白水Uブックス・近藤矩子 訳)
間違った洗礼により人間となって暮らすこととなったペンギンたちの島。歴史は進み古代から近代へと愚行を繰り返すペンギン人間。著者渾身の寓意小説。
本当のフランス史ではなく、あくまでペンギンの話なんですよという前置き。お人好しの老聖者マエールが悪魔に騙され、流された北の海でペンギンを人間と見間違えて洗礼を与えてしまう。それが神様会議で承認されるというとぼけたプロローグ。しかもこの聖者マエールは次々とその凡庸ぶりを発揮する。
古代の竜退治伝説の勇者による捏造や、のちに聖女とされる女性のたいそうな策謀家ぶり、また近代ではユダヤ人ピロへの国家的冤罪事件、政府閣僚夫人と宰相との不倫から招く戦火へと、いずれも近代フランス史のパロディなのだが無知なる自分はそこはちっともわからない。
わからなくても楽しく読める。いずれ変わらぬ人間と近代国家の混乱ぶりは、ほんとうは笑ってる場合ではない。最後に作者が予想する未来社会(現代)は発達した工業世界ではあるが、爆弾によるテロリズムが横行。疫病や飢饉も重なって一度破滅した社会ははたしてほんとうに復興するのだろうか?
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