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漫画家まどの一哉ブログ

   
「キルプの軍団」 大江健三郎
読書
「キルプの軍団」大江健三郎 作


主人公であり語り手の少年は、刑事の叔父とディケンズの「骨董屋」を原文で読みながら英語の学習をしているオリエンテーリング部所属の高校生。その叔父が昔から気にかけて見守っている元サーカス団員の一輪車乗りの女性と映画監督である夫は、金融業者に追われて山中に身を隠している。少年が彼らと出会うところから話が膨らんでゆくのだが、金融業者との問題はすでに解決されていて、事件は彼らの映画製作の過程で、対立する新左翼活動家の抗争として起きる。

小説の中で登場人物がディケンズやドストエフスキーの作品解釈をやりながら話が進むという珍しい展開。読書体験が人生の実体験として重要視されているが、けっして一般的なものではあるまい。罪と赦しというテーマを扱うに当たって、ディケンズの登場人物とこの作品の登場人物を重ね合わせながら進行する。キリスト教的な見方に限定されているわけではないが、死によって初めて赦しを得るという方法が問題とされている。大いに問題だ。

世間的には忘れられている極左暴力集団の対立が今も続いていて、映画監督たちは事件の犠牲者となるが、この若い極左活動家たちの過度に理念的で短絡な社会改革思想と視野狭窄は昔のままで、現代社会を舞台とする作品の中で出会うとそうと解っていても驚いてしまう。

少年の語りで書いてあって読みやすく、山中で事件が起こってからは興奮して止まらなかった。

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