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漫画家まどの一哉ブログ

   
電子出版とやらがいよいよやってきました。どうなんでしょうか。

とりあえず大手出版社は、出版社→取次ぎ会社→配信会社→書店→読者という既存の流れを守ろうとしているみたいだ。大手出版社と大手取次ぎと大手書店は一蓮托生の間柄だから、みんなが生き残ろうとして、それぞれマージンを取ることを考えて、最終価格が設定されてしまう。そんなことが可能だろうか?
実際必ず必要なのは配信会社であって、それ以外の紙の本を扱う業種は役目がないんじゃないだろか?
利幅のことを考えると、できるだけ中間業者を入れないで配信するのが一番だもの。

膨大な過去の文化遺産が本で残されているし、1ページずつめくって読むというカタチは消えない。要はそれが紙媒体でなくてほんとうによいか?だが、たぶんすぐ抵抗は無くなると思う。そのうち寝転がって読めるような、軽くて薄くて曲がるiPadが発売になるだろう。そして透過光もだんだん眼にやさしいものが開発されるだろう。

かつて写植版下がMacに移行する頃、知り合いの会社の写植オペレーターは「大丈夫、Macになっても仕事はありますよ」と楽観し、別の版下屋はあわててMac導入にふみきったが、数年後両社とも無くなってしまった。
技術革新によって職人が失職するのを進行形で見た。渋谷HMVが閉店しCDの世界が終わっても、レコード針の会社が生き抜いたように、全滅することはない。しかし規模の縮小は避けられない。
「大丈夫、紙の本は無くならない」とは、みんな言うところだが縮小はまぬがれないかもしれない。「自費出版」を手がける版元と同じように、簡単に自作を電子書籍として配信してくれるサービスも人気な様子。版元から書店まで、紙の本を扱うことに拠って生きている人々が、たくさん職を失う時代がいよいよ来た。

人間が80年生きるとして、こういうイノベーションによる産業構造のパラダイムシフトに何度も出会う世の中だ。などとわざとアホみたいな経済用語を使ってみたが、いろんな仕事が減っちゃって、みんな介護産業に行くしかない。それにしても俺が社会に出た頃は、会社にFAXすらなかったよ!信じられない!

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読書「未見坂」
堀江敏幸 作


とある小さな街の人々の日常を描いた短編集。
個々の話は独立しているが、ゆるく繋がっている。
いちばん良かったのは次の話。

■戸の池一丁目
家族のものが亡くなって、残された義母と二人暮らしを続ける主人公の男。義母の具合がわるくなって以来、三叉路の角地に建つ団子屋を引き継いでいる。店の裏地には、動かなくなった旧式のボンネットタイプの大型バスが放置されていて、それはむかし男が移動スーパーの商売に使っていたものだった。ある日路線バスに乗り違えてやってきた、古い知り合いの娘と幼児。男の脳裏には移動スーパーを走らせていた頃のいろいろな思い出がかけめぐるのだった。

他にもバラバラになりかけ、またなってしまって進行中の様々な家族の様子が、いろんな家業のやりくりを通して描かれる。地方都市ゆえか、酒屋や、床屋など、親の代から引き継いだ商売の設定が多い。そんな場合、子供の目線で大人たちを描くのは定番で、それが分かりやすいのだろう。個人的には子供のこころの揺らぎに興味はないが…。
それにしても静かな筆致で味わいがあり、露骨な事件性もなく、もちろん狂気も幻想性もない。正統派の日本文学とはこういうものかという気がした。

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読書
「さすらう雨のかかし」
丸山健二 作


過疎化の波はくい止めようのないものの、穏やかに時間の過ぎ行く漁業の町「海ノ口町」。主人公のわたしは、ここで生まれここで育ち、四十過ぎの今日まで町を出てゆくこともないまま、市役所の苦情処理係を懸命に勤めていた。大豆畑のかかしは、そんなわたしをモデルに作られている。

ところがある日、主人公のわたしに瓜二つのヤクザ男が町に現れた。隣町のサーカスに、孤児院の子供たちを引率したおり、そのヤクザと間違われたのをきっかけに、わたしの中で平凡な人生が崩れ始める。堅実ではあるが、けしてさすらうことをしない人生。これでほんとうによかったのか?実は40年間自分に嘘をついてきたのではなかったか?

やがて何者かによっていたずらされるかかし。山から転げ落ちる大岩。さびれた工場跡にたむろする野犬の群れ。平凡な人生が突然揺らぎ出し、わたしはこの日常を捨てて、いよいよ町を飛び出す衝動にかられるが…。

取りかえしのつかないいら立ちにさいなまれる中年男の心情が、雨中を飛ばす車とあいまって、スリリングに描かれ、吸込まれるようにして読んだ。人生も後のほうが短いとこのあせりがよく分かるというもの。うかつにもこれまで気にはしていたが、丸山健二を読んでなかった。もう少し読んでみよう。もう少し。

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映画(mixi過去日記より)
「ゴールキーパーの不安」
ヴィム・ヴェンダーズ監督


サッカーの試合中、審判の判定に抗議したゴールキーパーの主人公は退場。そのまま街を彷徨ううち、映画館の窓口嬢と親しくなり、一夜をともにするが、翌朝ふとしたはずみで彼女を殺害してしまう。一応証拠となる指紋を拭き取った後、むかしの女が経営する酒場のある、田舎町へと逃避するが、緊迫感はまるでない。村でのホテル暮らしも、まったくのんびりしたもので、ただだらだらと毎日を過ごす。

全編主人公の自堕落な日常が、淡々と描かれるだけで、殺人事件の行方は何処へやらというのが面白かった。これがヴェンダーズのロードムービーというやつか。以前劇場で「さすらい」を観た時にはひたすら退屈だったが、この作品は同じような何も起きない日常風景ながら、主人公の浮き草感がよかった。気合い入れて見入るのではなく、ラクに眺めてられる。

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読書(mixi過去日記より)
「坑夫」
宮嶋 資夫 作


大正時代のアナキスト小説家、宮嶋 資夫(みやじま すけお)の処女小説作品。
坑夫石井金次はその攻撃的な性格から、炭鉱内でたびたび問題を引き起こしていた。彼は虐待され搾取される自身の労働環境に深い憤りを感じつつも、声を上げようともしない探鉱者仲間たちにも煮え切らない思いで、ふだんから睨む様な目つきで仲間に接し、酒をくらい、暴力をふるい、人の女房をかどわかすのだった。炭鉱内で孤立してゆく男の破滅に至るまでの心情をリアルに追った名作。

もしこの作品を労働者を描いたという褒め言葉で、プロレタリア文学の枠組みに入れてしまうとしたら、もったいない話。確かに虐げられつつも立ち上がることも出来ない、炭坑労働者の実態そのものは描かれているが、それはそのこと以上のものではなく、この作品の魅力はなんといっても主人公石井の人物造形にある。この無学で短気で、鬱屈した感情をつねに暴力に置き換える、この人物の屈折した心理がいたいほど伝わってくる。この性格設定は別に労働者に限定されるものではなく、それこそ資本家でもいいわけだから、やはりすぐれたプロレタリア文学というものは、単純に労働運動に目的化されない深みを獲得しているということでしょう。ボクは有島武郎「カインの末裔」の主人公仁右衛門、野間宏「真空地帯」の主人公木谷上等兵をおもいだしました。
次の一節は、しみじみと情景が浮かぶ夜のシーンです。

「あゝあ」と吉田は両腕をぬつとあげて、大きな溜息をしてから外に出た。山の中腹に稲妻形につけた道を、鉱石箱を背負つて登り降りする掘子の持つたカンテラが、闇の中に狐火のやうにちらついてゐた。真黒な山に周囲をかこまれた空を仰ぐと、星ばかりいかめしく光つて――静まりかへつた夜の沈黙を、どこかの坑内でかけた爆発薬(はつぱ)の響が、一時に凄まじく破つたが、響が消えると同時に死のやうな静寂に返つて来た。

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現在わたしは「月刊架空」で「西遊」という漫画を連作している。この作品はそもそも「架空」が毎月出るということになった時、ぜひ協力したいが「アックス」連作とは別に、毎月短篇を考えるのはしんどい。ここはひとつ連載にしよう。しかもオリジナルな設定から構想するのも大変だから、はじめから決まっているものを借りようと考えた。

それで始めた「西遊」シリーズだが。これが自分でも予想外に面白いものとなってしまった。これはまずい。なにがまずいかというと、こんなに面白いならそもそも「アックス」で連載するべきだった。「これでは手塚編集長に怒られちゃうんじゃないの?」とは斎藤種魚さんの弁だが、自分もそう思っていたのだった。自画自賛。

そこで近い将来「アックス」では現代劇で不思議不思議な長編を描いてみたいと、空想するところだ。あらかじめ構成を考えてしまうと、自分の場合すぐ短編化してしまうので、「西遊」を手本に最初の設定だけ決めておいて、なんとかできないか。
いや、ぜひなんとかしたいところだ。なんとかして、どうにかしたいものだ。たぶんどうにかできたら、なんとかなっているだろう。なんとかさえなれば、いずれどのようにでもできるし、ならないところはならないにせよ、なるところはなるようになっているだろう。

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mixi過去日記より
キャラ

手塚の大人漫画はワキのキャラクターが秀逸。さすがにエンタテイメントだから主人公は美男美女キャラだが、まわりに出て来る有象無象となると、顔立ちがしつこくて味わいがある。たぶん実写から人物を起こしていると思われるが、デフォルメぐあいもマンガとしてのヌケがあって楽しい。凡百の漫画家は頭が漫画の中だけで完結しているから、自分の思い入れのあるカッコいいキャラを動かしているだけ。
エンタテイメントであるにもかかわらず、つげ忠男より見た目リアルなキャラを自由自在に動かせるということは、ニヒリスト手塚は現実世界をリアルに見ながら、エンターテイメントとしてのご都合主義に走れる才能の持ち主ということなのか?このスタンスとは?(つづく)
(この雑感は「MW」「奇子」など手塚の大人漫画を読み返してのものです。)

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昨日はセミ書房で「月刊架空」の編集作業に立ち会った。

現在編集部には福岡の安部慎一から漫画の原作原稿が続々と送られてきていて、昨日も新着3通を見せてもらった。いずれも原稿用紙1枚に1作という分量だ。じつは漫画の原作といっても、長年「アックス」に掲載されている「田川ローカル」他の小説作品とまったく変わらなくて、とくに漫画原作の体をなしているわけではない。

しかもこれが旧漢字・変体仮名まじりの崩し字で、そうとうに読みにくい代物。若い世代は知らないだろうが、崩し字には法則があって、アベシンのように習っていないと扱えない。なるほど「アックス」編集部は毎回この達筆と格闘していたのか。

私は書道は無知だが、幸いかつて大学の先生たちに混じって、日本の初期社会主義研究に参加していたことがあり、明治大正期の文献になじみ、肉筆筆記体の読み解きにも少しだけ経験があったせいか、なんとか3作訳することができた。

そのうち1つは例の宗教家生まれ変わり伝説の妄想作品で、とても世に出せない。1つは静かな日常風景。1つが妻との愛を語る作品で、これはよかった。
だが、この原作を漫画化するのは、やはりアベシンの文法がいちばんいいような気がする。アベシンからにじみ出る時間の流れ、人物の挙動。あの唯一無二の漫画世界。それは分かっているのだが、今回架空同人2名が苦闘して成果をあげているのだ。俺もできたら頑張るよ。

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読書「素粒子」
ミシェル・ウェルベック作



ヒッピーイズムにとち狂った母親に見捨てられて育った異父兄弟ブリュノとミシェルの人生。兄ブリュノは人生のすべてを性的快楽に賭ける男。彼が選んだのは60年代以降、一部に受け継がれるニューエイジ系フリーセックスのサークルだった。
かたや弟のミシェルは分子生物学の分野で多大な業績を上げる学者となるのだが、女性との関係はかなり淡白で実りの薄い者であった。

兄ブリュノが性的快楽を追い求める姿とセックスシーンが何度もくりかえされ、自分にとってはいささか辟易だったが、やがて分子生物学者である弟ミシェルの虚無的な人生が描かれてくると、ページを閉じられなくなった。

ところどころ全く容赦のない物理・生物学の記述が混じり、その整然とした理知的な文体が、登場人物のうごめきあがく様を冷徹に描いていて引き込まれる。兄弟ふたりとも中年を過ぎて、ようやく理想の女性にめぐりあうが、その女性は二人とも非業の死を遂げ、人生とはこんな者だったのかという失望と落胆がありありと解る。しかしそれは我々にとって、ごくありふれたことである。

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映画(mixi過去日記より)
「ピアニストを撃て」
フランソワ・トリュフォー監督
シャルル・アズナヴール主演


場末の酒場でピアノを弾く主人公。実は新進ピアニストとして一世を風靡した過去を持つ男だった。ある日突然、兄弟の犯した犯罪に巻き込まれて、追われる身となってしまう。かつて彼が妻を失うに至った悲劇とは?。そして新しい恋人との逃避行の果て、雪の中の静かな銃撃戦の結末は?

ギャングが嫌いなトリュフォーが世に放った2作目は、以外や以外、犯罪小説を原作に描いたサスペンス。とはいってもサスペンス感やスリル感はまるでなし。謎もない。追っ手の強盗二人組もまぬけな凡人で、主人公の兄や、酒場の主人も男達はみんな欲望に忠実なダメなヤツ。女は全員魅力的。だが男も女もサスペンスを盛り上げるためのカッコイイやつではなく、貧乏で平凡で切ないやつらばかりだ。その描き方がさりげなく、くどい演技がなくて気持ちよかった。
ここら辺りがトリュフォーたる所以か。よくしらないけど…。

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