漫画家まどの一哉ブログ
「日本蒙昧前史」 磯崎憲一郎
読書
「日本蒙昧前史」磯崎憲一郎 作
(文藝春秋)
高度経済成長後の70年代日本。グリコ・森永事件や大阪万博、五つ子ちゃん誕生から横井庄一さんまで。混乱を極める実際の様子を追って、行方知らずの日本の蒙昧に至る。
当時私がマスコミから伝わってくる範囲でよく聞いた事件ばかりだが、その内幕を知ると一筋縄ではいかない迷走ぶりで、なるほど現実とはこんなものかと納得がいく。五つ子ちゃんの山下さん一家もたいへんだが、大阪万博の立ち上がりのいいかげんさは、今も昔も変わらず、いかにも日本人らしくて驚いた。そしてジャングルに一人残された横井庄一さんの孤独はあまりにも辛い。
ところでこの作品はこれでもフィクションであり小説なのだ。たしかにノンフィクションやルポルタージュ小説とは明確に味わいが違う。書かれていることは事実であって、問題を定義するわけでもなく、おおげさに秘密を掻き立てるわけでもない。しかしこれが小説となると非常に珍しいなんとも不思議な感触がある。
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